雲の峰けふの主なる刻も過ぐ
いなびかり洩る雲の扉の片開き
いなづまは照らすものなく雲照らす
兜虫一角風を切つてとぶ
虹といふ聖なる硝子透きゐたり
干梅の香がせり死なずともよきらし
盗み来し木にて炎炎キヤムプの火
祭太鼓たるめる皮を打ちまくる
白鷺のとびて仕ふる雪の峰
香水を一滴長の病なり
新緑に電燈點きし音はせず
緑蔭に馬の蹄の力みしあと
老農の喰はず携ふ真桑瓜
晩涼の燈のかたまるはこころそそる
去るべくして家しづもれり秋の暮
秋冷ややかにあぢけなき吾等が世
鵙叫ぶ老呆けて生きたくはなし
燈なき漁家夜は火を焚けりちちろ虫
くらがりに俯向くことがちちろ虫
きりぎりす年年歳歳土同じ
きりぎりす光擾乱なせる中
露けさよ祷りの指を唇に触れ