平畑静塔
春のひる窯火のほかは消え失せて
落椿天女は剥げて隠れけり
藤房にかへらぬ花の散りこぼれ
撥ねものの一壺の仔細濃山吹
年寄の一つ年とる花見して
朔太郎春一番の砂ざらざら
柿色に柿の木焚きて雛まつり
うぐひすに鳴かれて険し蕨狩
握る束蕨ふやせり菫摘み
丁度子の重さ蕨を背に括り
さくら咲き紐なし靴のおひきづり
母の手の梶入学はどろんこ道
五六戸やをとこをみなに梅日和
義と烈の風すさびても梅散らず
蝶一つ火山灰地の畝もろし
海中の人か舳に海苔をとる
幾町歩茶摘の道は青からず
茶摘女の蝶にさはりしまぐれ指
笠の恩ながし茶摘女胸に抱き
茶摘姥身を捨山の深みどり