平畑静塔
燈籠を手に岩間ゆく身を細め
遠岩の人燈籠をともすさま
爛れたる秋日を西に羊飼ひ
白き霧あふれて開く朝の門
やすらへる人に知られて烏瓜
七夕のほろびたる朝移民発つ
曼珠沙華俘虜の尿は日にむかふ
白檀花嗅げば仏を俘虜思ふ
俘虜貨車の馬月光の地に降りぬ
徐々に徐々に月下の俘虜として進む
秋蝶や敗流を実は嘆かざる
秋祭リボン古風に来たまへり
秋祭女房鳥声にわらふ
秋の夜の「どん底」汽車と思ふべし
銀河延々手に一片の学位あり
日々を愚に花火大輪身にかぶる
新聞紙踏むは良夜の男靴
訃を聞くや月の大樹を見すゑつつ
大学生わめき案山子に声を刺す
月光の指善悪をなせる指
蜜柑喰ふその深緑の葉を無視し