現はれし彼に応へてふくらむ餅
大寒の石の学校処女の日の
藁塚に一つの強き棒挿さる
炭窯に何か言ひたく夜燃やす
緩歩して大酒甕に寄る杜氏
木枯の尾につれしぼり出す言葉
笹鳴や口中覗く身過ぎ得て
疎んぜられ悴まずしてピアノ弾く
白糖を嘗めクリスマス礼拝す
足袋の底記憶の獄を踏むごとし
水仙花眼にて安死を希はれ居り
寒廚の濡手聖書に触れむとし
メス執るを快事とすれば冬の鵙
冬園の鯉魚よあはれめ邪淫戒
棟上げの棟に寒月さしかかる
寒玉子マリアと置かれ白さ増す
バイブルに無き寒菊を父の供華
冬ばらの一枝長じて嫉妬を指す
外套を山羊が銜へてクリスマス
月光の除夜の塵より何かつまむ
足急ぐ枯野や箱の菓子動く
咳き入れる神父の形硝子ばり
聖堂の火気なく四隅力充つ
寒雲雀声たらたらと聖家族
色足袋の足を忍ばせ加わるミサ