和歌と俳句

平畑静塔

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現はれし彼に応へてふくらむ餅

大寒の石の学校処女の日の

藁塚に一つの強き棒挿さる

炭窯に何か言ひたく夜燃やす

緩歩して大酒甕に寄る杜氏

木枯の尾につれしぼり出す言葉

笹鳴や口中覗く身過ぎ得て

疎んぜられ悴まずしてピアノ弾く

白糖を嘗めクリスマス礼拝す

足袋の底記憶の獄を踏むごとし

水仙花眼にて安死を希はれ居り

寒廚の濡手聖書に触れむとし

メス執るを快事とすれば冬の鵙

冬園の鯉魚よあはれめ邪淫戒

棟上げの棟に寒月さしかかる

寒玉子マリアと置かれ白さ増す

バイブルに無き寒菊を父の供華

冬ばらの一枝長じて嫉妬を指す

外套を山羊が銜へてクリスマス

月光の除夜の塵より何かつまむ

足急ぐ枯野や箱の菓子動く

咳き入れる神父の形硝子ばり

聖堂の火気なく四隅力充つ

寒雲雀声たらたらと聖家族

色足袋の足を忍ばせ加わるミサ