夜振過ぐや炎々として垣の外
夜振明し焔の上の黒煙
藺を活けし水盤に見し埃哉
蜘蛛の縞に朱の筋もえて蘆の中
風に破れし網喰ひとつて怒り蜘蛛
軒の蜘蛛袋をさげて渉りけり
家近く来て蚊柱や藺田の村
吹き入るる風にも飽きし蚊帳哉
張り干して蚊帳の萌葱やほととぎす
ありなしの蚊帳の萌葱や月の宿
暮れてなほ浪の蒼さや蚊喰鳥
親子出て蝙蝠飛ぶや小松原
南風や軒深くゐて我一人
芽を追うて出る葉のはやさほととぎす
人の前に産み落とされし鹿の子かな
ふるひ落つ一片の葉に鹿産る
生るるや親にねぶられ芝鹿の子
神の瞳とわが瞳あそべる鹿の子かな
日と苔のみどりに育ち鹿の子かな
鹿の子よ歯朶踏みはづすことなかれ
雨の日の親をはなれぬ子鹿かな
取り出す古きが中の新ら扇
とぐろ巻く蛇に来てゐる夕日かな
土間へ出る蜥蜴を妻はよく知れり
焼け乾く石静かなる蜥蜴哉