蔓薔薇や子に嘴うつす大鴉
雁去るや豆粕ばかり食ひをれば
まくなぎや夕焼のこす下駄さげて
蟻の列示威の列わがバス待つ列
酔ひの目に苺は紅しひとつづつ
箸拍子夕焼柱をのぼりゆく
黴の香の中にいきいきナイフとぐ
藷粥や父とよばれて飢ゑしめき
爪剪るや梅雨夕映の足を抱き
石鹸玉乾坤ときの間の豪華
まくなぎや耳は無限に沈みゆく
食ひのばす米も終りぬ梅雨夕焼
梅雨の月耳薄く幸また薄し
風見鶏くくとまはりぬ杏掌に
夾竹桃しんかんたるに人をにくむ
きりきりと紙切虫の昼ふかし
蜩ややうやく白く那谷の石
夏の雲白きに乳房向けて泳ぐ
座禅のぞき叱せられしが涼しけれ
永平寺出て炎天の女体かな
桔梗を焚きけぶらしぬ九谷窯
茶もてき呉須磨りをれば蝉の天
水打つて吹鳴らしをり水鶏笛
闇市や真昼音なき揚羽蝶