和歌と俳句

加藤楸邨

塁々たる石の頭を夕焼過

水のむと片目つぶれば十三夜

鰯雲寝返る背骨鳴りあひき

炎天に犬尻ふりて欠伸せり

宙に垂れ没日と秋の蜂の脚

秋風の鬚ばりばりと噛みて病む

双手をつき首のべて冬日見つつ咳く

鶏はしる五月一日のまひるまを

子を待ちて春暁のミルク時計の顔

梅雨の月ありやとかざす掌に

雷雨下の乳房は濡れて滴れり

夕栄や梅雨の机をはるかにす

病み耐へし目に奏でをり梅雨の脚

芥子詠んで黄河を越えき芥子を見ず

はしる地図の代赭はゴビの色

火取虫翅音重きは落ちやすし

路地ぬけて遠夕焼の一世界

金魚死ぬ喘ぎを遠きこととして

指をもて追へばより人貧し

おそろしきまでに我に似て白絣

子が泣ける家の奥へと夕焼け

赤ん坊の蹠あつし雷の下

トマトもぐ背が抗ひてゐたるなり

赤ん坊の掌の柔かさこがね虫

黄金虫灯に酔ひ兜虫は攀づ