冬天の一角透くは鷺を待つ
夜汽車過ぎゆく一畝一畝冬田青し
海に雪ふる人生言訳ばかり満ち
こみあぐるやうに米磨ぎ枯野見る
頸さわやか癒えて入りゆく冬嶺の間
日の出の薔薇呟き癖も癒えて止む
銀座西日頸たてて軍鶏はしるなり
雲海や太き幹ほど濡れて立つ
蜩や水底に貝口ひらく
滴りて漆は青し肋の前
蜘蛛垂れて日の出を浴びぬ胸の前
赤松や遠きは蜩充満す
濡れし肋に水ほとばしり葛の花
梅雨の青嶺を出でて滴る貨車の胴
農夫の葬おのがつくりし菜の花過ぎ
土用浪の裏は日あたりつつ奔る
わが息の満ちきつて土用浪くづる
胸の書が音してひらく秋の風
祭笛うしろの闇に太き鎖
蝉が曳く絲が摺りゆく月あかり
畳担ぐ背金の薄の揺れどほし
薄見るこの目業火を経て澄みき
光太郎より金蠅わかち薄野へ
金蠅と別れて花野ながかりき