和歌と俳句

日野草城

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爽かやことしの夏も死なざりし

平凡に咲ける朝顔の花を愛す

残暑に倦み猫を邪慳に扱へり

月の出や滅法涙脆くなり

余命いくばく生命保険払ひ込む

台風に仰臥の四肢をこわばらす

草深に露命を維ぐ秋日和

生きるとは死なぬことにてつゆけしや

しびとばな生けて花買ふこともなし

てのひらに一顆珠なす青ぶどう

枕頭に柚子置けば秋の風到る

病む鶴の高くは翔ばぬ露日和

白菊の九つの花みな薫

肌寒や妻の機嫌子の機嫌

疲れ寝の妻の寝顔や昼の虫

無花果を提げて三十年の友