和歌と俳句

星野立子

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疲れきし子を抱きあげ春の風

真中に道まつすぐに桃畑

山吹のうてなばかりとなりにけり

石楠花の邪魔な一枝を挿しかへぬ

蝶々の葎深しや小町寺

黒蝶の山歯朶に沿ひ舞ひのぼる

貴船川蝶々高くとぶばかり

大杉の根本をとべる山の蝶

黒蝶の色の濃ゆさよ松林

梅もつて僧かへりきぬ円覚寺

下萌や大風呂敷を両の手に

噴水の鶴の口より春の水

寝釈迦見るさき行く僧の坐りけり

春風や煙草の煙さきにとぶ

美しき帰雁の空も束の間に

屋根替や足場に下がる縄数本

屋根替の萱束をつむ梅の下

屋根替のしまひ煙草の遅日かな

ひとときの春雨やみし池の面

枯枝に春雨雫結びては

鵯のむかう向きなる梅の花

杉の花散りゐて山路すべりがち

春蘭を掘りてはえごの木の下に

堀りきたる春蘭花をそむきあひ