和歌と俳句

帰る雁

俊成
雲のうへに行通ひても音をぞ鳴く花咲くときに逢はぬ雁がね

俊成
あはれにも思ひたつかなかへる雁さすがにみゆる春のけしきを

新古今集 俊成
きく人ぞ涙はおつる帰る雁なきてゆくなるあけぼののそら

西行
何となくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね

西行
玉づさのはしがきかとも見ゆる哉とびおくれつつ歸る雁がね

西行
かりがねは歸る道にやまどふらむ越の中山かすみへだてて

西行
つれもなく絶えにし人を雁がねの帰る心と思はましかば

西行
いかでわれ常世の花のさかり見てことわり知らむかへる雁がね

寂蓮
帰る雁 雲の波路に かず消えて ともを離るる あまの釣舟

式子内親王
ふる郷へ今はと向ふ雁がねも別るる雲の曙の色

式子内親王
帰る雁過ぎぬる空に雲消えていかに詠ん春の行くかた

定家
春雨のはれゆく空に風ふけば雲とともにもかへる雁かな

定家
行く雁の霞のころも立ち重ねかへるもきたる心地こそすれ

定家
まだきより花を見すててゆく雁やかへりて春のとまりをばしる

定家
契りおけ玉まく葛に風吹かば恨みも果てじかへる雁がね

定家
これに見つ越路の秋もいかならむ吉野の春をかへる雁がね

定家
かへる雁なれつる空の雲かすみ立ち別れなばこひしからじや

俊成
秋はきて春はとこよに帰る雁夏やすずしきすみかなるらむ

俊成
帰る雁 こゑに涙や たぐふらむ ながむる袖に 露のおちそふ

俊成
秋きてもなるとはなしに帰る雁春は別れの心地こそすれ

俊成
春の空ことちにみえて帰る雁松の風にぞ聲かよふなる

定家
おもひたつ山のいくへも白雲に羽うちかはしかへる雁がね

定家
つれもなく かすめる月の ふかき夜に 数さへ見えず かへる雁がね

定家
花の香も かすみて慕ふ ありあけを つれなく見えて かへる雁がね

俊成
しらやまや猶ゆきふかき越路には帰る雁にや春を知るらむ

新古今集 良経
忘るなよたのむの澤をたつ雁も稲葉の風のあきのゆふぐれ

新古今集 良経
帰る雁いまはのこころありあけに月と花との名こそ惜しけれ

雅経
越の空は いくへの雲の 上にまた かすみ飛びわけ かへる雁がね

定家
暮れぬなり山もと遠き鐘の音に峯とびこえて帰る雁がね

定家
花の色にひとはるまけよ帰る雁ことしこしぢの空たのめして

実朝
難波潟こぎいづるふねのめもはるにかすみにきえて帰る雁がね

定家
いくかすみいく野の末は白雲のたなびくそらに帰る雁がね

定家
春の夜の八聲の鳥も鳴かぬまに頼むの雁の急ぎ立つらむ