和歌と俳句

藤原定家

仁和寺宮五十首

春の色と頼むまでやはながめつるいふばかりなる山の霞を

松の葉は今もみゆきの古里にまづあらはるるうぐひすのこゑ

かげたえて下行く水もかすみけり濱名のはしの春のゆふぐれ

たまほこのゆくてばかりを梅の花うたてにほひの人したふらむ

山のはも霞のほかの花の香にこのごろふかきいざよひの月

おそくときいづれの色に契るらむ花待つ頃のきしのあをやぎ

旅枕こやもかくれぬ芦の葉のほどなきとこにはるさめぞふる

いくかすみいく野の末は白雲のたなびくそらに帰る雁がね

あしびきの山櫻戸をまれにあけて花こそあるじ誰を待つらむ

櫻花たが世のわか木ふりはててすまの関屋のあとうづむらむ

続後撰集・春
跡絶えてとはれぬ庭の苔の色も忘るばかりにぞ散りしく

山吹の花にせかるるおもひがは浪のちしほはしたにそめつつ

み幣とる三輪の祝や植ゑおきしゆふしでしろくかかる卯の花

うゑくらす緑の早苗さとごとに民の草葉のかずも見えけり

ほととぎすたれしのぶとか大荒木のふりにし里を今も訪ふらむ

まだ知らぬ岡邊のやどのほととぎすよその初音に聞きかなやまむ

たちばなの花ちる里の夕月夜そらにしられぬ影やのこらむ

なでしこのたのむまがきもたわむまで夜のまの露の貫ける白玉

こぎかへる棚なしを舟おなじ江にもえてほたるのしるべがほなる