和歌と俳句

春の雪

青柳にふりけされけり春の雪 子規

下町は雨になりけり春の雪 子規

消にけりあわただしくも春の雪 漱石

春の雪朱盆に載せて惜まるる 漱石

鉄幹
師の君の御袖によりて笑むは誰ぞ興津の春の雪うつくしき

鉄幹
五つとせむつまじかりし友のわかれ城のひがしに春の雪踏む

宿直して暁寒し春の雪 虚子

母衣を引く馬の稽古や春の雪 碧梧桐

淡雪や氷あとなき湖の上 碧梧桐

南天に寸の重みや春の雪 漱石

利玄
春の雪をんなの人の八つ口の傘をこぼれて匂ふみちわる

晶子
春の雪たわわに降れり上加茂の村につづける堤の松に

八一
もりかげのふぢのふる根によるしかのねむりしつけきはるの雪かな

迢空
わがかづく朽葉ごろもの袖 たわに、ゆたかに 春の雪ながれ来ぬ

寺町や椿の花に春の雪 漱石

春の雪麦畑の主とく起きぬ 鬼城

春雪や小倉山下の京菜畑 鬼城

赤彦
春の夜の雪の觸らふ音すなり松はかすかに立つにしあらむ

鶺鴒を追ふ烏あり春の雪 石鼎

ほのぼのと曙色ながら春の雪 石鼎

鯛籠に折り添へ笹や春の雪 泊雲

赤彦
春の雪おほくたまれり旅立たむ心しづまり炉にあたり居り

晶子
ある刹那ふためきて降りある刹那のどかに降りぬ春のあわ雪

春雪を拂ひて高し風の藪 虚子

かもめまた浪をはなれぬ春の雪 石鼎

淡雪に忽ちぬれし大地かな 石鼎

晶子
春の雪雛の顔ほどほの白くあえかに覗くものの梢に

潦に映りては消ゆ春の雪 泊雲

赤彦
紅梅の花にふりけるあわ雪は水をふくみて解けそめにけり

春の雪舞ふや明るき水の上 風生

枯蔓につもりてかろし春の雪 泊雲

椎の葉のざわめき合ひぬ春の雪 みどり女

春雪やふたたびわたる難波橋 櫻坡子

春雪のしばらく降るや海の上 普羅

からたちの打ちすかしけり春の雪 龍之介

茂吉
春の雪 みなぎり降りぬ 高山の つらなり延ぶる みなみ独逸に

春の雪薮につもりて輝けり 普羅

春雪のちらつきそめし芝居前 虚子

袖に来て遊び消ゆるや春の雪 虚子

春の雪鰤のはだへにふれて消ゆ 石鼎

淡雪のつもる白さや夕まぐれ 石鼎

帝劇へ行く人泊めて春の雪 石鼎