和歌と俳句

夏の月

夏の月四條五條の夜半過 子規

鱗ちる雑魚場のあとや夏の月 子規

荷を揚る拍子ふけたり夏の月 子規

甲板に寝る人多し夏の月 子規

妻去りし隣淋しや夏の月 子規

隣より謡ふて来たり夏の月 漱石

夏の月眉を照して道遠し 漱石

湯上りの庭下駄軽し夏の月 龍之介

石象の腹暖し夏の月 龍之介

浦辺来れば裏峰尖りや夏の月 碧梧桐

晶子
えも云はぬ裸の少女舵とりて船やるごとき夏の夜の月

晶子
うき草の中より魚のいづるごと夏木立をば上りくる月

サイダーの泡立ちて消ゆ夏の月 山頭火

麦飯に何も申さじ夏の月 鬼城

谷の辺に小さき厠や夏の月 石鼎

我が庵の臼は榻なり夏の月 泊雲

晶子
夏の月薄らにかかり砂浜の貝の葉めきてなつかしきかな

友思へば面影来るや夏の月 石鼎

こまごまと椎透く灯あり夏の月 石鼎

夏の月皿の林檎の紅を失す 虚子

瀬石皆影曳き流れぬ夏の月 泊雲

生き疲れてただ寝る犬や夏の月 蛇笏

松の葉を引き張る蜘蛛や夏の月 石鼎

松の下楓の上や夏の月 石鼎

崖の蔦はねて風あり夏の月 花蓑

晶子
白金の糸のやうにも森の木をしかと繋げる夏の月光