和歌と俳句

新古今和歌集

羇旅

皇太后宮大夫俊成
世の中はうきふししげし篠原や旅にしあればいも夢に見ゆ

宜秋門院丹後
おぼつかな都にすまぬ都鳥こととふ人にいかがこたへし

西行法師
世の中を厭ふまでこそ難からめかりのやどりを惜しむ君かな

返し 遊女妙
世を厭ふ人とし聞けばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ

藤原定家朝臣
袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふかたより通ふうらかぜ

藤原家隆朝臣
旅寝する夢路はゆるせ宇都の山関とは聞かずもる人もなし

藤原定家朝臣
みやこにも今や衣をうつの山ゆふ霜はらふ蔦のしたみち

鴨長明
袖にしも月かかれとは契り置かず涙は知るやうつの山ごえ

前大僧正慈円
立田山秋ゆく人の袖を見よ木々のこずゑはしぐれざりけり

前大僧正慈円
さとりゆくまことの道に入りぬれば恋しかるべきふるさともなし

素覺法師
ふるさとへ帰らむことはあすか川わたらぬさきに淵瀬たがふな

西行法師
年たけてまた越ゆべしと思ひきやいのちなりけり小夜の中山

西行法師
思ひ置く人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな

後鳥羽院御歌
見るままに山風あらくしぐるめり都もいまは夜寒なるらむ