和歌と俳句

若山牧水

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断崖の 岩うちそぎて 建てられし 宿屋のにはに 浪うちあがる

洞穴を 湯殿と為しつ ともしたる ラムプはうつす 荒岩の壁を

はりはりと 岩にくだくる 浪の音 夜半ねざめゐて 聞けば寒けき

めざめつつ 静まりをれば 朝日さす 海のきらめき 部屋を染めたり

日のひかり 流れかがよふ 海原に をりをりあがる 真冬日の浪

わが部屋の 真むかひに遠き 崖のはな 穂すすきなびく 冬空を背に

浪型に そがれし崖に しみじみと 冬の日のさし 浪の寄る見ゆ

ひもすがら 冬日さしたる この部屋に 旅のこころか 疲れてゐたり

部屋にゐて 見やるはるけき 断崖の 根に寄る浪は 雪のごと散る

独りゐて ひさしく坐る この部屋の 玻璃戸に触りて 黄なる冬草

夕日さす 崖のさなかの 岩かげに 釣するらしも 長き竿振る

入江なる 岩に日のさし 浪くだけ つばらに見れば 雀子のゐる

槙の葉に すずめ子あそび 海人が家の 垣根に海の 影うつしたり

しらじらと 沖より寄する 浪の穂の 長くつらなる この寒き日を

寒き日の 浪を避けつつ 岩かげに 海苔摘む海女の 二人三人ゐる

海人どもの 若きたはむれ 老いたるは 専念に釣る 断崖の壁