耳もとの鳥の羽ぶきに、森深き朝の歩みを とどめたりけり
むしあつき昨夜ひと夜さに 生れいでて 朝森とよめ 初蝉はなく
朝森の砂地に 長くうごもれるもぐらの道は、土新らしも
かの森の雑木のうら葉 さわだちに、照りみだりつつ 風つのり行く
夕やけの空のあかりに ほのぐらく 枝はゆれゐる 向つ峰の松
森の葉のをぐらきそよぎ あまた夜を ここには聞きつ。家さかりをり
白じろと 経木真田を編みためて、うつつなきかも。草の上のをとめ
道なかの庚申塚に穂麦さし、わが来て去ると、誰知るらめや
草の藪深く入り立ち、火をもやす男もだせり。さびしともなく
桑の畑 若枝のもろ葉うちゆすり、とほり照りつつ 光りしづけし
さ芽だちのみどりのいろひ にほはしき桑の若枝は 塵かうむれり
うちわたす窪田のなだれ ひとところ。桑の若枝の、日にかがやけり
吹きとよむ桑の中路の向ひ風 眩はしもよ。若葉の光り
草のなか 光りさだまるきんぽうげ。いちじるしもな。花 群れゆらぐ
きんぽうげ さわだつ花はほのかなれど、ただここもとに、ま昼日は照る
きんぽうげ、むらむら黄なり。風のむた その花ゆらぐ。いろひ かげろひ
草かげに、九品仏はいましつれ。現しくゆれて、きんぽうげの花