なかなかに 鳥けだものは死なずして、餌ばみ乏しき山に 声する
家に飼うふものは しづかになりにけり。馬すら あしを踏むこともなし
山の村に 幾日すごして 出で来つる我の心の、たのしまなくに
村山の草のいきれを のぼり来て、めくらを神に、いはふ祠あり
日ねもす すわり居たりしか━━。この夕光に、山鳥 きこゆ
年深く 山は静かになりにけり。山鳥の声 あはれ うつるも
年かへる日に逢ふ今日か。旅にして 巷の人を出でて 見むとす
この朝明け 熊野速玉 神の門に 羽音さやかに おり来や。鴉
山かげは寒しといへど、雲きれて、睦月ここのかの日ざし あたれり
賑はしき年とはなり来。門松に雪すこし散りて 人の音する
歳の朝 人ことわりて会はねども、人来ることは あしくあらなくに
年どしに 人いとふ癖つのるらし。睦月の朝を 坐りゐるなり
ひたひたと 跫音聞ゆるゆふべかも。山深く行きて 帰り来にけむ
年暮るる山のそよぎの かそかなる幾ところ過ぎて、我は来にけむ
炉は消えて、三畳の部屋の荒壁に、念彼観音の軸を かけたり
かたくなに 炬燵きりたる部屋寒し。畳の砂を掃くあるじかも
ほのかにも 聞え来るかも。大宮のうちの起き臥し ただしくいます
大宮のみほりに落す 御井の水━━。見つつ罷りて、夜はひびくも
乏しくて礼譲知る人は、言ふことも 我の心を たのしからしむ
暇乞ひて 心ゆたかになりゐたり。このよき人を 訪ね来にけり