夏の日の 日でりおくれて、水漬き田は、穂に立つ葉なく 白みそめたり
朝立ちて 夕まけくだる峠下 夜につづきてふる 雨の道
如月の夜に積む雪の いちじるく生き生きてこそ はかなかりしか
逝くものは疑ひがたし。あかつきと 雪ひたすらに 明り来にけり
ふる雪の ほどろほどろに落ち来たる空に向ひて、さびしまむとす
明けがたの雪を踏み踏み 老いびとの悔みに来るを 見迎えへてゐる
たたかひを 人は思へり。空荒れて 雪しとしととふり出でにけり
つつ音を聞けばたぬしと言ふ人を 隣りにもちて さびしとぞ思ふ
師は 今はしづかにいます。荒あらと われを叱りし声も 聞えず
我が耳は聞かずやあらむ。窓の木の 梢うごくよと 言ひたまひけむ
十年あまり三とせを経たり。師の道も かつあやまたず 我は来にけむ
湯の村は 山浅くして、川牀に伐りおろされし 木天蓼の枝
山のすがるのひとつ 出で入る道のうへに、立ちどまりつつ かそかなりけり
この夜ごろ よく眠るなり。寝につけば、ほとほと白む朝を 知らず
大きなる山虎杖の葉の面に、我がつく息のなづさふを 見つ
山びとの市に出で来て 買ふ物の ともしげなるが、あはれなりけり
山人の 山より来たり、雪の町にかたらふ声の大き けうとさ