この空の 澄みの寒さや 満月の 辺に立ち騰る 黄金の火の立
月明き 半島の夜を 歩まむとし 汐ふかき風を まづ吸ひにけり
春あさき 囃子求め来て 月の磯 我家の跡の 汐あかり見つ
来て見れば いよいよ近き 月明り 通り矢も見ゆ 城ヶ島も見ゆ
あれだあれだ 城ヶ島の とつぱづれに 燈台の灯が 青う点いてる
萱刈りやめ 媼はうたふ 日ののどか なんとその眼の うれしさうなる
島山の 萱の閑かに 鶉ゐて 啼くなる昼は 雌もこもり啼く
あの頃の あのこころもち 手をあげて トロッコで走る ちやうどあれです
どこやらから 春が来さうな 雪の後です トロッコの土の 東風です
障子に すずろにひびく 筬の音 山辺の春は すでに動きぬ
山かげの 懸樋の縁の 紐氷柱 本末ほそう なりにけるかも
うれしくて おれは鰌を 踊るなり これは大きい 印旛沼の鰌
両国の 一ぜんめし屋で わかれたる そののち恋し 伯林の茂吉
ざるひりて すくふお前が うれしくて おれは鰌に なりにけるかも
下総や 印旛の大沼 見にと来て 見ておどろきぬ 灰濁める波
印旛びと 印旛の津々に 屯して 魚とり葦刈り いにしへ思はむ
日の照りて 茅花そよめく 浅茅原 我等あぐらゐ 冷き酒のむ
印旛沼 津々の荻原 風ふけば 見ゆるかぎりが 皆そよぐなり
枯葦に とまるすなはち 揺れ揺れて よしきりが鳴けり 若葦の原に
菱の花 菱の実となる あはれさも 早やただよへり 舟にて見れば
春生れし 仔馬はいまだ 乳のみて 遊ぶのみなり 蛍草の花
世の中は 常しさびしよ 麦ほこり 浅夜立てつつ 搗きてめぐらむ
おもしろの 印旛びとかも 夜をこめて 教へたぶなり 麦を搗く型
麦搗くと 搗きてをどりて すべなけど をどりあかさむ 鶏の啼くまで