息つめて 子らまじろがず 空飛ぶに 何悲しきと 思ふなるらし
我が言ひて 絶ゆる言葉は 子らはいざ 老いたるどちや 知りておはさむ
雲仙の 山を眺むる 朝霞 ここに学びて 童なりにし
宮裏は そこらの砂の 日に蒸れて 土糞のにほひ いまにをさなき
裸足には 小砂ざらつく 絵馬殿に 幼なかりける 子ら遊びにき
神にうつ 大き太鼓は その朝や とうとうとあげて ゆくらつづけぬ
この神酒は 中ほど黒き 土器に とよと注がれて いや沁みにけり
専念寺 甍黝みて 閑かなり 我が寺と思ふ はひりの照りを
閻魔堂 草むす軒の うらべより つぶやききこゆ 蜂か巣ごもる
夏闌くる 寺のお堀の とちかがみ 源五郎虫も 黝みつつあり
夕凪は いきるる草を 墓所には 人多に来居り 我が泣かむ見に
土に沁む 線香の火の まだ見えて 散るいくつあり 青き折れ屑
街掘は 柳しだるる 両岸を 汲水場の水照り 穏に焼けつつ
かいつぶり 橋くぐり来ぬ 街堀は 夕凪水照 けだしはげしき
我が見るは 入日まともに さしあたる 駐在所脇の 二挺堰の渦
町祠 石の恵比須の 鯛の朱の 早や褪せはてて 夏西日なり
もの言ひて 前かがみなる 甚吉は 柳の洩れ日 まぶしならなむ
蒟蒻屋の 弟の末吉 泣きめだち 女子さびしか 今は媼めく
葉柳や 今の日ざしに 相見れば 誰彼の頭も 薄くなりつる