いかにして 梢の隙を もとめえて 小池に今宵 月の澄むらん
庵さす 草の枕に 友なひて 笹の露にも 宿る月かな
梢洩る 月もあはれを 思ふべし 光に具して 露のこぼるる
神無月 しぐれ晴るれば 東屋の 峰にぞ月は むねと澄みける
神無月 谷にぞ雲は しぐれめる 月澄む峰は 秋に変らで
神無月 しぐれふるやに 澄む月は 雲らぬ影も 頼まれぬかな
あはれとて 花見し峰に 名をとめて もみぢぞ今日は ともに降りける
分けてゆく 色のみならず 梢さへ 千草の嶽は 心染みけり
笹深み 霧越す岫を 朝立ちて なびきわづらふ 蟻の門渡り
屏風にや 心を立てて 思ひけん 行者は帰り 稚児は泊りぬ
身につもる 言葉の罪も 洗はれて 心澄みぬる 三重の滝
こここそは 法説かれける 所よと 聞く悟りをも 得つる今日かな
よしさらば 幾重ともなく 山越えて やがても人に 隔てられなん
しをりせじ なほ山深く 分け入らん 憂き事聞かぬ 所ありやと
秋は暮れ 君は都へ 帰りなば あはれなるべき 旅の空かな
露置きし 庭の小萩も 枯れにけり いづら都に 秋とまるらん
白川の関屋を月の もる影は 人の心を とむるなりけり
都出でて 逢坂越えし 折までは 心かすめし 白川の関
枯れにける 松なきあとの 武隈は みきといひても かひなかるべし
踏まま憂き もみぢの錦 散り敷きて 人も通はぬ 思はくの橋