新古今集・秋
うたたねのあさけの袖にかはるなりならす扇の秋の初風
ながむれば木の葉うつろふ夕月夜ややけしきだつ秋の空かな
日ぐらしの声も尽きぬる山蔭に又驚かす入相のかね
新古今集<・秋
跡もなき庭の浅茅に結ぼほれ露のそこなる松蟲の聲
我宿の稲葉の風に驚けば霧のあなたに初雁の声
寄せかへる波の花ずり乱れつつしどろにうつすまののうら萩
続後撰集白露の色どる木々はをそけれど萩の下葉ぞ秋を知りける
新勅撰集
秋といへば物をぞ思ふ山の端にいさよう雲の夕暮の空
狩衣乱れにけらし梓弓引まの野辺の萩の下露
萩の上に雁の涙の置く露は凍りにけりな月にむすびて
新古今集
ながめ侘びぬ秋より外の宿もがな野にも山にも月やすむらん
ふるさとは葎の軒もうらがれてよなよなはるる月の影かな
とけてねぬ袖さへ色にいでねとや露ふき結ぶ峰の木がらし
しるきかな浅茅色づく庭の面に人めかるべき冬の近さは
新古今集
秋の色は籬にうとくなりゆけど手枕なるる閨の月影
浅茅原初霜むすぶ長月の有明の空におもひきえつつ
新古今集
桐の葉も踏みわけ難くなりにけり必ずひとのを待となけれど
思へども今宵ばかりの秋の空ふけゆく雲にうちしぐれつつ