古今集・春
袖ひちてむすびし水のこぼれるを春立つけふの風やとくらん
古今集・春
霞たちこのめも春の雪ふれば花なきさとも花ぞちりける
春日野の若菜つみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん
わがせこが衣はるさめふるごとに野辺のみどりぞ色まさりける
あをやぎの糸よりかるく春しもぞみだれて花のほころびにける
梅の花にほふ春べはくらぶ山やみに越ゆれど著くぞありける
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
暮ると明くと目かれぬものを梅の花いつの人まにうつろひぬらん
ことしより春知りそむる桜花ちるといふ事はならはざらなん
たれしかもとめて折りつる春霞立ち隠すらん山のさくらを
一目見し君もやくると櫻花けふは待ちみてちらばちらなん
春霞なにかくすらんさくら花ちるまをだにも見るべきものを
ことならばさかずやはあらぬ櫻花みる我さへにしづ心なし
櫻花とくちりぬともおもほえず人の心ぞ風もふきあへぬ
山たかみ見つつわがこしさくら花風は心にまかすべらなり
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける
みわ山をしかもかくすか春霞人に知られぬ花やさくらむ
梓弓春の山辺をこえくれば道もさりあへず花ぞちりける
春の野に若菜つまんとこしものをちりかふ花に道はまどひぬ
やどりして春の山辺にねたる夜は夢の内にも花ぞちりける
なきとむる花しなければ 鶯もはてはものうくなりぬべらなり
夏の夜の臥すかとみれば郭公鳴く一こゑにあくるしののめ
郭公人まつ山になくなれば我うちつけに恋ひまさりけり