河風のすずしくもあるかうちよする浪とともにや秋はたつらん
たが秋にあらぬものゆゑをみなへしなぞ色にいでてまだきうつろふ
やどりせし人のかたみか藤袴わすられがたき香ににほひつつ
秋風の吹きにし日より音羽山みねのこずゑも色づきにけり
しら露の時雨もいたくもる山は下葉のこらずいろづきにけり
ちはやぶる神の斎垣にはふ葛も秋にはあへずうつろひにけり
秋の菊にほふかぎりはかざしてん花よりさきと知らぬわが身を
さきそめしやどしかはれば菊の花色さへにこそ移ろひにけれ
見る人もなくてちりぬる奥山のもみぢはよるの錦なりけり
秋の山もみぢをぬさとたむくればすむわれさへぞ旅心地する
年ごとにもみぢばながす竜田川みなとや秋のとまりなるらん
夕づくよ小倉の山になく鹿のこゑのうちにや秋はくるらん
雪ふれば冬ごもりせる草も木も春に知られぬ花ぞさきける
冬ごもり思ひかけぬをこのまより花とみるまで雪ぞふりける
梅の香のふりおける雪にまがひせばたれかことごとわきて折らまし
ゆく年の惜しくもあるかなます鏡みる影さへにくれぬと思へば
春くればやどにまづさく梅の花きみが千歳のかざしとぞ見る
惜しむから恋しきものを白雲のたちなむのちはなに心地せむ
白雲のやへにかさなるをちにても思はん人に心へだつな
わかれてふ事は色にもあらなくに心にしみてわびしかるらむ
かつこえて別れも行くか逢坂は人だのめなる名にこそありけれ
秋はぎの花をば雨にぬらせども君をばましてをしとこそ思へ
むすぶ手のしづくににごる山の井のあかでも人に別れぬるかな
糸による物ならなくにわかれぢの心ぼそくもおもほゆるかな