後撰集・恋
怨みても身こそつらけれ唐衣きていたづらにかへすとおもへば
後撰集・恋
たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人に告ぐるなりけり
後撰集・恋
手向けせぬ別れする身のわびしきは人目を旅と思ふなりけり
後撰集・恋
いかで我人にもとはむ暁のあかぬ別れや何に似たりと
後撰集・恋
別れつる程も経なくに白浪の立帰りても見まくほしきか
後撰集・恋
月かへて君をば見むといひしかど日だに隔てず恋ひしきものを
後撰集・恋
暁のなからましかば白露のおきてわひしき別せましや
後撰集・恋
風をいたみくゆる煙の立ち出でても猶こりすまのうらぞ恋ひしき
後撰集・雑歌
世の中は憂きものなれやひとことのとにもかくにもきこえくるしき
後撰集・雑歌
惜しからで悲しきものは身なりけりうき世そむかん方をしらねば
後撰集・雑歌
かざすともたちとたちなんなき名をば事なし草のかひやなからむ
後撰集・雑歌
帰りくる道にぞけさは迷ふらむこれになずらふ花なきものを
後撰集・雑歌
浪にのみ濡れつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟
後撰集・雑歌
あはれてふ事にしるしはなけれどもいはではえこそあらぬものなれ
後撰集・雑歌
ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきぞあつむる
後撰集・離別羇旅
折々に打てたく火の煙あらば心ざすかをしのべとぞ思
後撰集・離別羇旅
忘れじとことに結びてわかるればあひ見むまだは思ひみだるな
後撰集・離別羇旅
みやこにて山の端に見し月なれど海よりいでて海にこそいれ
後撰集・離別羇旅
照る月の流るゝ見れば天の河出づるみなとは海にぞ有ける
後撰集・慶賀哀傷
琴の音も竹も千歳の声するは人の思ひに通ふなりけり
後撰集・慶賀哀傷
大原や小塩の山の小松原はや木高かれ千代の影見む
後撰集・慶賀哀傷
祝ふこと有となるべし今日なれど年のこなたに春も来にけり
後撰集・慶賀哀傷
引き植へし二葉の松は有ながら君が千歳のなきぞ悲き
後撰集・慶賀哀傷
恋ふる間に年の暮れなば亡き人の別やいとゞ遠くなりなむ