後撰集
秋の野の草もわけぬをわが袖の物思なへに露けかるらん
後撰集
衣手は寒くもあらねど月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ
後撰集
秋風に霧飛び分けて来る雁の千世に変らぬ声聞こゆなり
後撰集
あしひきの山の山守もる山も紅葉せさする秋は来にけり
後撰集
玉かづら葛木山のもみぢ葉はおもかげにのみ見えわたるかな
後撰集
秋霧の立ちし隠せばもみぢ葉はおぼつかなくて散りぬべらなり
後撰集
ひぐらしの声もいとなくきこゆるは秋ゆふくれになればなりけり
後撰集
秋の月ひかりさやけみもみぢ葉のおつる影さへ見えわたるかな
後撰集
長月のありあけの月はありながらはかなく秋は過ぎぬべらなり
後撰集
降りそめて友待つ雪はむばたまの我が黒髪の変るなりけり
後撰集
黒髪と雪との中のうき見れば友鏡をもつらしぞと思ふ
後撰集・恋
あかつきと何かいひけむ別るればよひもいとこそわびしかりけれ
後撰集・恋
色ならば移るばかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける
後撰集・恋
住の江の浪にはあらねど夜とともに心を君に寄せわたるかな
後撰集・恋
涙にも思ひの消ゆる物ならばいとかく胸は焦がさざらまし
後撰集・恋
玉の緒の絶えて短き命もて年月ながき恋もするかな
後撰集・恋
わびわたるわが身は露をおなじくは君が垣根の草に消えなむ