躬恒
言の葉を 月のかつらの 枝なくば なににつけてか 空につてまし
延喜御製
あかず見て 別るる時は いそのかみ ふるの山辺を こひや渡らむ
長治二年三月 京極関白家肥後
河竹の ながれてきたる 言の葉は よにたぐひなき ふしとこそきけ
御返し 堀河院御製
神代より ながれ絶えせぬ 河竹に 色ますことの 葉をぞそへつる
中務
われよりは 久しかるべき 跡なれど しのばぬ人は あはれともみし
貞慶上人
これをこそ まことの通と 思ひしに なほ世をわたる はしにぞありける
式子内親王
筆の跡に すぎにしことを とどめずば しらぬ昔に いかであはまし
前大僧正慈鎮
かきとむる 昔の人の 言の葉に 老のなみだを そめて見るかな
皇太后宮大夫俊成女
なき数に 身もそむく世の ことのはに 残るうき名の またやとまらむ
前中納言定家
ためしなき 世々の埋木 朽はてて またうきあとの 猶や残らむ
正三位知家
わかの浦の よものもくづを かきおきて あまのしわざの 程やしられむ
浄意法師
いその神 ふるきながれの 末たえて みくづにとまる うたかたもなし
藤原為綱朝臣
わかの浦 へだてし跡の もしほ草 かく数ならで またや朽ちなむ
中原師季
もしほ草 かきあつめても かひぞなき ゆくゑもしらぬ わかのうら風
平泰時朝臣
かきおきし わかのうらぢの もしほ草 いかなる方に 浪のよすらむ
円嘉法師
かたみとも なに思ひけむ 中々に 袖のみぬるる 水茎の跡
丹波経長
をしへおく そのことのはを しるべにて 四方の草木の 心をぞわく
中原師光
神代より 今わが君に つたはれる あまのひつぎの 程ぞ久しき
中原友景
よるよるは いかなる方に かよふぞと とへばこたふる おきつしらなみ
道助法親王家五十首歌に 法印覚寛
うきにそふ かげよりほかの 友もなし しばしな消えそ 窓のともし火
前摂政太政大臣
うばたまの あかつき闇の くらき夜に 何をあけぬと 鳥のなくらむ
土御門院御製
あかつきの しぎのはねがき かきもあへじ わが思ふことの 数をしらせば
前大納言忠良
世のうきを 今はなげかじと 思ふこそ 身をしりはつる かぎりなりけれ
正三位成実
ひとすぢに 思ひさだむる 心だに あらばうきよを なげかざらまし
基俊
あしねはふ うきをわたると せし程に やがてふかくも 沈みぬるかな
俊頼朝臣
いほ崎の こぬみの浜の うつせ貝 もにうづもれて いく世へぬらむ
赤人
しらなみの たちかへりくる ことよりも わが身をなげく 数はまされり
按察使朝光
松山の こなたかなたに 浪こえて しぼるばかりも ぬるる袖かな
返し 左近大将済時
思はじと おもふものから まつやまの すゑこす波に 袖はぬれつつ
除目の朝 藤原光俊朝臣
つらしとも うしともさらに なげかれず 今はわが身の ありてなければ