むかし おとこ有けり
東の五条わたりにいと忍びていきけり
みそかなる所なれば 門よりもえ入らで
童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり
人しげくもあらねど たびかさなりければ あるじ聞きつけて
その通ひ路に 夜ごとに人をすへてまもらせければ
いけどもえ逢はで帰りけり さてよめる
人知れぬわが通ひ路の関守はよひよひごとにうちも寝ななん
とよめりければ いといたう心やみけり あるじゆるしてけり
二條の后に忍びてまゐりけるを 世の聞えありければ
兄人たちのまもらせ給ひけるとぞ