なじょもん(新潟県津南町)の「さわって楽しむジオパーク」

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 8月22日、新潟県津南町の農と縄文の体験実習館(通称なじょもん。土地の言葉で「どうぞ」を意味する「なじょも」と縄文を合わせた造語)で「さわって楽しむジオパーク バリアフリーの視点」を見学しました。これは、「町制施工60周年関連事業・夏季企画展 苗場山麓ジオパーク認定記念」ということで、7月18日から8月23日まで開催されていたものです。見学は、現在長野県伊那市で南アルプスジオパークに関連した仕事をしているFさんと一緒にしました(Fさんには、数年前山陰海岸学習館および海の文化館を案内してもらったことがあります。)
 
●鉄道を楽しむ
 今回の津南までの往復の旅で、はからずも日本の中央部を 1周することになりました。行きは、8月21日に大阪府茨木市の自宅から、京都、東京、越後湯沢を経由して十日町市で宿泊、翌日朝に十日町から津南へ。そして夕方に、津南を出て、飯山、金沢、京都を経由して夜遅く帰宅しました。
 私は鉄道ファンなどではまったくないのですが、この旅で鉄道ファンならきっとわくわくするであろう体験を2箇所で偶然することになりました。 1つは、行きの越後湯沢から十日町間の、北越急行ほくほく線でです。越後湯沢から3つ目の魚沼丘陵を発車してすぐ、トンネルに入りました。なかなかトンネルから出ません。5、6分してようやく停車しました。でもそこは、美佐島(みさしま)というトンネル内の地下の駅!そこでは乗降客はなかったようですぐ出発、トンネル内でかなりカーブしながら数分してようやくトンネルから出てすぐ次のしんざ駅で停まりました。このような山の下を通り抜けるトンネルの中に駅があるのは、日本で数例しかなくとても珍しいようです。(このトンネルは、調べてみると赤倉トンネルで、全長は10.5kmもあります。)
 もう 1つは、帰りの津南から飯山間の、JR快速おいこっとです。切符を買う時に全車指定ということだったので何故かなと思っていたら、この電車は2両編成のいわゆる観光列車でした。各席にテーブルが付き、車内販売もいろいろあり、記念撮影のサービスもあります(記念撮影で盛り上がっているグループもいました)。また、沿線各駅に関連した解説放送も、ちょっとむかし語り風に流されていて、私には楽しい旅行ガイドになりました。
 
●石彫たちと出会う
 また今回の旅で、これまた思いがけなくも、十日町市で多数の石彫に触ることができました。十日町市では、20年ほど前から昨年まで毎年石彫シンポジウムを開催して、その作品を市内の各所に展示しています。22日の朝早く、Fさんと一緒に散歩に出て、宿泊していたホテルから駅周辺に置かれている石彫十数点を触りました。以下に、私が触った作品を書いてみます。
ただいま: 宿泊したホテルのすぐ目の前にあって、向って右側にフクロウが上下に 2つ(下のほうが小さい。母子かな?)、向って左側に木の切り株とその上にどんぐりが数個。
Kissing Fish 98: 2ひきの魚が向き合い、顔をぴたっとくっつけ合っている。
冬の朝: 雪の風景の台の上に、厚く着込んで寒そうにしている2人の像。1人はポケットに手を入れ、もう1人は膝をかかえるようにして腕を組んでいる。
芽ぶきのうた: 丸い顔をした2人が上を向いている。
フキノトウ: 頭巾をかぶっているような人、台座がでこぼこしている。
朝です: 鶏が前を向き、その後ろに大きな卵。
夏曳き: 全長1.5m近くもありそうな大きな牛。
わらしこ: 顔を斜め上に上げ、左手を頭の後ろに当てている。
環: 全体は径が70cmくらいある、中央がふくらんだ円盤状で、そのあちこちに深い縦の割れ目がある。表面は全体につるつるしているが、割れ目の所は鋭く、またその中はざらざらしている。
時間旅行者のために「王と王妃」: 王と王妃が座る椅子なのでしょう、大きな二つの椅子が並んでいる。ともに背もたれの部分は窪んでそれぞれ独特の模様があり、また二つ並んだ椅子の外側の脚部は人間の脚のように下に傾斜して伸びている。
萌芽: 径が1mもありそうな太い幹の割れ目のような所に、うねうねと根のようなのが伸びている。幹の部分はさらさらした手触り、根のような部分はするうっとした手触りで、2つの部分は石の種類が違うかも知れない。
夢を紡いで: 高さ1.5m余、幅1m以上ある大きな人物像。頭部や腕、足はつるつるした硬そうな石。足は開き、腕を組み、とくに目を大きく開けているのが特徴。
’10 二人でなら: 2人が背を合わせて反対向きに座っているが、顔はともに正面を向いている。顔は女性のよう(あるいは子供?)だが、それぞれ雰囲気が違う。
未来を抱く: 正面を向いて座っている大きな人が、少しずつ大きさの異なる3人の小さな人を抱いている。その3人も正面を向いている。顔の表現は抽象的。
 これらの石彫を触りながら、改めて、触って鑑賞するために石彫がとても適していることに気付かされました。そんなに凹凸がなくても、磨いて滑かになった面と加工したままの面との違で、顔など特徴的な部分の輪郭が触ってはっきりと浮かび上がってきます。種類の違う石を組合わせて作品を作れば、その手触りの違いで表現が豊かになりますし、ときには重量感のコントラストなども感じ取ることができます。
 また、これらの石彫作品はどれも低目の台に置かれていて、全体を触ることができました。他の都市でも、よく街中にブロンズなどの像が設置されていることがありますが、高い台の上に設置されていて作品全体を触ることができないことが多いです。十日町市の設置方法は、見えない人はもちろん、だれでも親しく手を触れることができて、とても良い展示方法です。
 
●立体地形模型
 ようやく、本題のなじょもんの「さわって楽しむジオパーク」についてです。
 なじょもんに着くと、早速Sさん(事前の問合せなどに対応してくれた方で、津南町教育委員会 文化財専門員)とHさんが出迎えてくれました。まず、この企画展について点字で書かれたパンフレットをいただきました。しかもこの点字パンフレットは持ち帰って良いとのこと、後でゆっくり読むことができまた記念にもなりますので、このようなサービスはなかなか良いです。それから、今日の進行について説明を受けました。天気を考慮して、午前中に車で移動して外を見学し、昼から館内で体験と展示の見学をすることになりました。
 車で出発する前に、まず津南周辺の1万分ノ1の立体の地形模型を触りました。縦横とも1.5mということですので、15km四方を表していることになります。高さも同じ縮尺のようで、2、3cmくらいの所から10数cmくらいの所まで(数百mから千数百mまで)ありました。信濃川、中津川、志久見(しくみ)川の川筋(深い溝のようになっている)をたどり、それらの間にある溶岩の大地や河岸段丘なども触ってよく分かりました。私がとくに興味を持ったのは、溶岩が流れ下った先端部のくねくねした曲線です。このくねくねの曲線から溶岩のそれぞれの流れを想像できるような気がしました。そして、この溶岩の先端部の曲線の先にも、2本くらい同様にくねくねとした扇状の曲線も観察できました。この曲線群を触って、これは、私が以前触ったことのある扇状地の立体模型ととてもよく似ているように思いました。溶岩の大地から流れ出して堆積した層が扇状地のようになっているのかも知れません。また、この溶岩の流れの先端付近からは大量の水が湧き出しているそうです。溶岩の層は容易に水を通すのにたいして、その下の岩盤は水を通しにくいからだとのことです。
 中津川の左岸や右岸には、2、3mmの段差と数cmからときには10cm近くもある平坦な面がいくつも連なっていることが分かります。多い所では全部で9段あるとか。中津川は170mくらい、段丘のいちばん高い所は500m?くらいのようですので、平均して模式的に考えると、高さ30〜40m前後、幅が数百mから1kmくらいの平面がいくつも続いていることになり、頭の中である程度河岸段丘の風景が想像できるような気になりました。河岸段丘の成因については、土地の隆起と中津川による侵食という単純な仕組ばかりでなく、最近は地球環境の変化(気温や降雨量、あるいは海水準の変動など)や多発する地滑りによる平準化などの要因も考慮して、各段丘についてそれぞれ詳しく検討されるようになっているそうです。また、有名な秋山郷の位置も教えてもらいました。中津川が刻んだ深い谷の両側の急な山際にあるちょっとした細長い平らな所に集落が点在しているようです。秋山郷の近くの中津川左岸の崖は高い所は3〜4cm(実際は300〜400m)くらいはあったように思います。
 さらに、この立体地形模型を触りながら、4年前、東日本大震災の翌日に起き、長野県側の栄村や新潟県側の津南や十日町などで大きな被害をもたらした長野県北部地震についても説明してもらいました。信濃川の左岸に沿うように走る断層帯には南からいつも強い力がかかっているのですが、地震はその断層帯で起ったのではなく、その断層帯を越えて盛り上がっている山の辺りで、信濃川断層帯とは異なる方向でいくつも縦に断層が出来たらしいです。この辺りには砂が堆積した地形も多く、そういう所に被害が集中したようです。
 この立体地形模型は、津南のジオパークを知るのにとても役に立ちました。また、その後行われた車で移動しての見学のさいにも、この地形模型を参考に私は風景を想像していました。ただ、この地形模型は範囲が狭いため、津南が長野県・群馬県・新潟県でどの辺に位置しているのかが分かるように、略地図でいいですので、より広い範囲の触地図があればもっと良かったと思います。また、この後行ったマウンテンパークスキー場や山伏山などの位置をあらかじめこの地形模型で確かめておけばよかったです。(その後、職場の点訳モランティアの方に、津南周辺の触地図を作ってもらいました。津南周辺の市町村、信濃川・中津川・志久見川・清津川、飯山線やほくほく線、苗場山・鳥甲山・山伏山・石落し・マウンテンパーク津南などジオパークの各所の位置関係をしっかりと確認することができました。)
 
●山伏山の風穴
 車でまず向かったのは、マウンテンパークのスキー場の上です。車で十数分、ここは、河岸段丘を眺望するのに絶好のポイントのようです。その時はかなり曇ってはいましたが、それでも河岸段丘を一望できているようでした。
 それから、山伏山の風穴に向いました。10分近くはかかったでしょうか、かなり山道を上ったようです。(山伏山は、安山岩で出来た900mくらいの釣鐘状の山で、この風穴は780mくらいの所にあるとのこと。柱状節理の岩壁の下部にできるガレ場にはしばしば風穴が点在していて、この風穴もそのようなものの1つだそうです。回りはブナ林だとのことです。)
 車を降りて少し歩くと、なんだか足元のあたりが冷えてきたような感じ。手を足元にやってみると、冷機を感じます。また、道の側にはエゾアジサイ(中央に両性花がたくさんあり、その回りに装飾花が数個ある。ガクアジサイと同じような感じ)がたくさん植わっています。そして、湿り気も増し、ひやあっとした空間に入ります。回りは石組みになっていて、石の間からは冷たい空気が確かに出ています。ここは、明治時代に、風穴を利用して蚕の卵を保管するために作った人工の室だとのことです。石組の石も、どれも角ばった長方形のような形で、柱状節理で割れた石を使っているそうです。だいぶ冷えてきたのでこの室から出ると、私以外の見える3人は目鏡が曇ってどんどん回りが見えにくくなってきているようです(外気温との差で冷え切った眼鏡に水滴が付くのでしょう)。眼鏡をはずしても、回りは濃い靄に包まれているようです。風穴の回りには、気温差のためにいつもこのような靄がかかっているようです。また、風穴の回りには、エゾヒョウタンボクなど、寒い所でしか育たない稀少な植物も多いそうです。岩の間からどうして冷気が出てくるのかについては、地下にある冷たい水に冷やされてだろうと言われたりもしますが、はっきりとは分かっていないとのことでした。
 山伏山までの行き帰りには、柱状節理の風景として有名な石落し、亜炭の地層、岩肌に見える蜂の巣状の模様などについても説明してもらいました。
 
●なじょもんの植物たち
 なじょもんには11時半くらいに戻ったのですが、館に入る前に、なじょもんの敷地内に植えている植物たちにも少し触れました。アワとキビ、それにヒョウタンに触りました。とくにヒョウタンは面白かったです。2種類あって、1つはふつうのヒョウタンの形(直径6cmくらいの球が2つ重なったような形)でしたが、もう1つは、直径20cmくらい、長さ30cm近くある、やや先のほうがすぼまったでかい卵のような形でした。そして、これが1cmくらいの太さの蔓にぶら下がっていて、それをちょっと持ち上げてみようとしたら、びっくりするほど重かったです(たぶん5、6キロはあると思います)。中に実が詰まっているとはいえ、ちょっと驚きました。また、葉にも触ったのですが、直径30cm近くもあると思われる大きな葉で、葉の表・裏ともに薄い毛のマットに被われているような感じでした(朝顔の葉の毛よりも短かくやわらかい感じ)。
 なじょもんでは、アワやキビなどに限らず、縄文時代に栽培したり利用していたと思われるいろいろな植物を植え、それを館で行う体験や展示などに利用しているそうです。これは館の活動を持続させるための、素晴しい方法だと思いました。
 
●粘土こねの体験と火焔土器
 その後、館に入って、粘土こねと文様付けの体験をしました。津南辺りでは良質の粘土はあまり取れないらしく、津南産の不純物の入った硬い粘土を砕いて、植物の根や石などを除き、それに砂や水などを加えてこねて、加工しやすい粘土に仕上げなければならないということです。
 そしてまず、そのような粘土で作られた(かも知れない)5000年前くらいの縄文土器の復原品を2点触りました。 1つは、有名な火焔型土器です。下の径が10cmくらい、上の径が20cmくらい、高さ20数cmくらいの大きさです。全体の形は、底から高さ10cmくらいの所まではほぼ垂直に立っていて、そこから斜め上に急に大きく広がり、さらにその上に火焔の文様の部分が10cmくらいほぼ垂直に乗ったようになっています。縄文土器と言っても、この土器には縄文はまったくなく、下のほうの側面には、6、7mmの間隔で縦の溝が平行にぐるうっと1周刻されています。上の火焔の部分は、4方向にまったく同じ鶏の鶏冠?のような形があり、それぞれの鶏冠の間のやや下に渦巻き模様が向い合わせに付いています。全体に対称的なとても整った形です。とくにすごいと思うのは、上の火焔の部分は中が中空になっていることです。そうすることで上の部分の重さをできるだけ軽くしようとしたのだと思いますが、かなり高度な技術が要るように思います。私はこのような火焔土器は実用品ではないだろうと思っていましたが、土器の内側には黒く焦げた跡があり、なにか実用に使われていたようです。
 もう1つは、上の直径が15cmくらい、高さ23、4cmくらいの深鉢のような形で、これには側面全体にわたってはっきりと縄文が付けられていました。単純な形なのに厚さが1cm以上はあって、どうしてなのかと思って尋ねてみたら、縄文中期の土器はこれくらいの厚さがふつうだとのことです。私が2週間ほど前に見学した八戸の是川縄文館で触った縄文晩期の厚さ5、6mmくらいの土器とはだいぶ異なった印象です。
 土器を触った後、楽しみにしていた粘土こねの作業です。ちょっと固めのぼそぼそした感じの土塊を受け取り、それを石や木も使ってくずしながら、できるだけ細かく砕いて行きます。この過程で、土塊に混じっている小さな石や根などを取り除いていかなければならないのですが、私のにはそういうのはぜんぜん入っていなくて、ちょっと残念でした。(隣りで一緒にしていたFさんの土塊にも、ちょっと根のようなのが入っていたくらいでした。)その後、少しずつ水でぬらしながらこねてゆくと、どんどん粘り気が出てきていい感じになってきます。さらにこれに少し砂を混ぜて(砂の分量は全体の1割弱だそうです)力を入れてどんどんこねて行きます。私はこういう作業には慣れているようで、短時間できれいな粘土の状態までなったので、これを使って簡単な器を作ってそれに模様を付けようかと思いました。器の形にはすぐになるのですが、でもすぐ大きく割れ目が入ってしまって、なかなか安定しません。よく粘土はねかせておかなければと聞きますが、そのことを実感しました。私も粘土を円盤状にして、それに縄文原体(なにかの繊維を強く撚り合せて細縄のようにしたものをを木の棒にぐるぐると巻きつけたもの)や貝殻を使って文様を付けてみました。触ってはそんなにはよく分からないのですが、縄文原体をどのように転がすかで出来る文様がいろいろ変化するようです。
 
●多彩な展示
 昼食後、1時半くらいから展示室の見学をしました。岩石、石器、土器、いろいろな木や木の実、動物の剥製や骨格標本、化石、植物の繊維やその製品など多彩でした。ほぼすべての展示品には、そのタイトルとごく簡単な解説が点字で表示されていて、私のように点字の読むことのできる者には、とても助かります。
 岩石としては、安山岩、頁岩、無斑晶ガラス質安山岩があり、またそれぞれの石を使って作った石器も一緒に展示されていました。安山岩は、そのままのざらついてごろうっとした感じのもの、川で侵食されて全体に丸っぽくなったもの、柱状節理で細長い3角柱に近い形のものがありました。頁岩は、そのままのものと川で侵食されて丸っぽくなったものがあります。これらの展示の中で私がとくに注目したのは、川で侵食されて丸っぽくなったといっても、手触りは安山岩のほうは全体にさらさらしていて表面に細かい穴のようなのが密集した感じになっているのにたいし、頁岩のほうは全体がとてもつるつるになっていることです。これはたぶん、頁岩はとても細かい粒子がぎっしりと詰まったような構成になっているのにたいし、安山岩はある程度の大きさの結晶を多数含んでいるためだと思います。無斑晶ガラス質安山岩ですが、無斑晶でガラス質の火山岩という点では黒曜石もまったく同じなので、黒曜石とどこが違うのだろうかと思いながら触りました。断面の曲面は黒曜石と同様に貝殻状といえそうですが、エッジは黒曜石ほど鋭くなさそうです。また、黒曜石ほど滑かさもないように思いました。(どちらも急激にマグマが冷えて固まったものですが、黒曜石は、珪酸分が多くそれだけ粘性の強い流紋岩質やデイサイト質のマグマが固まったのにたいし、この無斑晶ガラス質安山岩は、より珪酸分が少なくそれだけ粘性も弱い安山岩質マグマが固まったもの、ということになるようです。)
 安山岩を使った石器は、平たい大きな石皿です。表面は全体に少しさらさらした感じで、木の実などを磨り潰すのに使ったようです。頁岩の石器としては、先がかなり尖ったものが数個置かれていました。無斑晶ガラス質安山岩を使った石器は、先をちょっと打ちかいて鋭くしたような打製石器です。この石器は、津南町の正面ヶ原遺跡出土のもので、2.9万年前に降下したとされる姶良カルデラからのAT火山灰層の下から見つかったそうです。ということは、3万年も前の人類の活動を伝える遺物だということになります。
 土器は、体験の部屋でも触った火焔土器です。でもこちらのほうが、欠損部を補った所が少なくて実物の部分が多く、それだけ実感があります。大きさは体験の部屋のものとほぼ同じですが、上の火焔の部分がやや小さめに作られていました。(私が触った火焔型土器について、後で確認したところ、道尻手遺跡出土のもので、縄文時代中期中葉=約5500年前のものだとのことです。)
 次に、クリ、クルミ、トチ、コナラなど、いろいろな木の実がありました。ブナの実は、3角錐のような形で、実とともに、それが入っていたと思われる羽のようなもの?もあって、面白かったです。(それぞれの実について、それがどんなものに入っているのかとか、実が少しずつはじけていく様子やどんな風に運ばれているとかも分かるような展示にすると、もっと面白かったと思います。)また、香りを体感しようということで、オオバクロモジ(楊枝に使われる)とタムシバの枝がありました。タムシバの枝にちょっと傷を付けてもらったら、甘い良いにおいがしました。さらに、重さの違いを感じてもらおうということで、ケヤキの分厚めの板とキリのやや薄めの板が置かれていました。(ケヤキのほうがずうっと重いことを体感しました。できれば、体積の同じものでも比較できるようにしたほうが、重さの違いがより正確に分かります。)
 動物の剥製と骨格標本がいろいろありました。アナグマ、タヌキ、キツネ、ツキノワグマ、シカ、ニホンカモシカなどです。アナグマは、熊の仲間ではなくイタチ科で、全長は60cm余、脚が短かくて爪が長く鋭かったです。穴を彫るのに適していそうです。全体の形や手触りは剥製のほうが分かりやすいですが、動物の体の作りや動き方を考えるには骨格標本のほうが分かりやすいです。時間があったら、いろいろな動物の骨や関節、目や耳の位置、歯の形などをじっくり比較してみたかったです。
 大きな歯の化石もありました。百万年前ころ生息していた古型マンモスの左顎の臼歯の化石だそうです。歯の表面にはたくさんつぶつぶのような突起が並んでいるのですが、そのいちばん後ろの突起辺りで、縦にすぱあっと割れていました。全体を合わせると、たぶん長さは15cmくらい、幅は4〜5cm、高さは10cmくらいあったと思います。1ヶ月ほど前に大阪市自然史博物館で触ったナウマン象の臼歯化石よりはだいぶ小さいですが、歯がきれいに割れていたのがとても印象に残ります。
 それから、縄文時代からつい最近まで使われていた、いろいろな植物の繊維とその製品が展示されていました。カラムシの繊維、それを編んで作ったあんぎん(編布。触った感じはごわごわした茣蓙のよう)、さらに大きなあんぎんの真ん中に首を通すように穴のある簡易な衣がありました。また、シナノキ、オヒョウ、カサスゲなどの繊維と、それらを使って作った蓑や手籠や帽子のようなものがありました。
 
●生態系に触れる試み
 最後に、入口近くに設置されていた「触れるビオトープ」を見学しました。水槽は展示室にも数個ありましたが、これらはもちろん中に手を入れてみることはできません。たぶんそれをなんとかして触って体感できるようにと考えたのが、この触れるビオトープでしょう。また、高さも60cmくらいの位置にあって、子どもたちばかりでなくたぶん車椅子使用者にも見やすく手で触れやすくしようとしたのだと思います。大きさは2.5m四方で、水の深さは10cm弱、底に砂や小石などが置かれています。中央には台(島)のようなのがあって、いちおう用水路を模して作ったとのことです(濾過装置は数台取り付けられていましたが、とくに流れのようなのは感じませんでした)。
 実際に水の中に手を入れてみると、まず触ったのがなにかの葉のようなもの、これは藻の一種だそうです。あとは、石や砂ばかり。私が水の中で手を動かすと、魚たちはみな反対側に逃げていくそうです。当然ですね。たずねてみると、タニシ、カワニナ、サワガニ、エビ、たくさんのアブラハヤなど、全部で10種近く入っているとのこと(魚では他に、小さな鯉やヤツメウナギもいるとか。でもヤツメウナギはいつも砂の中に隠れているそうです。)ということで、丁寧に底の石や砂を触っていくと、タニシやカワニナを数個見つけることができました。カワニナは小さな巻き貝かと思っていましたが、長さ3〜4cmはあるしっかりとした巻き貝でした。サワガニも、つかまえてもらったのを触りました(でもこのサワガニたち、上手にこの水槽から次々に脱出して行くとか)。
 このビオトープの維持・管理はなかなかたいへんなようですが、こうして地域の生態系のごく一部でも体感できるのは素晴しいと思います。工夫すれば、別の生態系も再現できるかもしれませんし、また、野外にこのようなビオトープを作るのも良いかもしれません。これからの展開が楽しみです。
 
●おわりに
 今回の見学では、朝から夕方まで約6時間、Sさんはじめスタッフの皆さんにたいへんお世話になりました。こんなにも歓迎していただき、そして館内の展示だけでなく、野外で風穴を実感し、また風景も少しは感じることができました。
 「ジオパーク」というと、自然景観から、地質、動植物、そこで暮らす人々の歴史や生活までと、範囲が広くてなんだかつかみどころがないような気もしますが、今回はまず初めに立体地形模型に触ったのが良かったです。これで、うっすらとですが、苗場山麓ジオパークの姿が見えてきたような気がします(苗場山の模型もあったほうが、なお良かったと思いますが)。そして、風穴や粘土こねの体験、触れるビオトープ、各種の展示を通して、この地域の自然や人々の暮らしがちょっと身近なものになったような気がします。
 展示についてですが、今回は初めての試みということもあってでしょう、触れられる物をできるだけ多く集めて網羅的に展示してある、という印象を受けました。(もちろんその中には、同じ岩石でも産状の異なるものを並べ、またそれを利用した石器も一緒に展示するとか、同じ動物の剥製とその骨格標本を一緒に展示するとか、優れた展示方法もありました。)多数の展示物をただ順番に触っていくだけだと、結局どれもあまり印象に残らないということもあります。テーマをいくつかにしぼり、それぞれの展示物を手掛かりにして深く掘り下げて考えさせたり、各展示物の関連性が十分に伝わるような解説をしたりなどすると、展示物を通して示される世界に引き込まれ、印象に残る展示になると思います。
 とくに、見えない人の見学については、やはりボランティアの活用も望ましいでしょう。私が今回スタッフの皆様から受けたようなサービスを、だれにでもするというわけには、とてもゆかないと思います。また、見えない人の中には、点字を読めない人もいますし、触ることに慣れていない人もいます。そのような人たちのためにも、ただ触る物を置くだけでなく、その人の様子を見ながら詳しく解説してくれる方が必要です。各種の体験や、さらにはビオトープの管理などにも、ボランティアは活躍できると思います。
 また、触れるビオトープとともに、なじょもんの敷地内の農地を、展示や体験の場としても活用してはと思います。ガイドの方がいれば、見えない人たちも植物の観察はよくできますし、またその収穫物などをいろいろ加工するなどの体験も大いに楽しむことができます。
 
 今回は、津南までの行き帰りもふくめてとても充実した時を過ごすことができました。とくに、なじょもんのスタッフの方々には心から感謝しています。今後の展開を楽しみにしています。
(2015年8月27日)