第28回 手で触れて見る彫刻展

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 12月8日、藤沢市の市民会館で開催中の、第28回 手で触れて見る彫刻展に行きました。
 今年も以下の3点を出品させてもらいました。
「風の音」(横34cm、縦24cm、厚さ5cm レリーフ):草原のような所を疾駆している馬に、横笛を吹く人が乗っている姿をイメージして作りました。馬は、小さいころちょっと触れたり、お腹の下に入ってみたりしたことがあるくらいで、駆けているところはほとんど想像できず、手元にあるレリーフを参考にしたり、数枚の馬の絵の写真を立体コピーにしてもらって触ったりしました。できるだけ風を感じられるような作品にと思って作りました。写真はこちら
 「落ちる」:歩道をブロック塀沿いに歩いていて、急に左脚が穴のような所に落ちてしまった時の情景を作品にしたものです。左側のブロック塀と波板の間の隙間に左脚が落ち、ほとんど右膝だけで全体重を支えるような姿勢になって、右膝が激痛に襲われショックのようになりました。救急車が呼ばれ、車道にあるのは救急車からやってきたストレッチャーです。全体の写真はこちら左脚がブロック塀と波板の間の溝に落ちている写真はこちら
「あやうい」直径25cm、厚さ5cm):平皿の上にたまごが6個乗っていて、そのうち2個は皿からはみ出して転がり落ちそうです。日常のどこにでもある、あやうい感じを表現してみました。写真はこちら
 
 会場に昼前に到着、早速地域のテレビとラジオの取材がありました。桑山先生はこの手で触れて見る彫刻展を始めるきっかけやその意義について話され、私は自分の作品を少し紹介したり作り方について話し、主催者の藤沢市点字図書館の担当者が同時開催の「浮世絵すり体験」と「作ってみよう!さわれる版画」および「指で読む絵本ってどんなもの?」「点字でオリジナルカードを作ってみよう!」について紹介しました。
 その後、適宜来場者に私の作品の説明をしたり、先生の作品や土曜会の皆さんの作品を触れて鑑賞したりしました。
 私の作品は、かなり好評のようでした。とくに「風の音」は、私としては笛の部分や馬の前脚があまりうまく出来なくてどうかなと思っていましたが、全体的には馬の走る様子が見て分かるようでしたしまた風の雰囲気もよく伝わっているようでした。「落ちる」は、一見しただけでは何だかよく分からないようです(「猿も木から落ちる」のことわざから猿を連想した方もいました)が、自分の体験であることを話すと皆さんびっくりという感じでした。「あやうい」については、どんな意味合いなのかたずねられました。
 先生の作品は、「窓:雨宿り」「海辺」「過去の町」の3点が展示されていました。どれもこれまでに触ったことのある作品です。とくに「雨宿り」は、2012年末に初めて土曜会のこの彫刻展に行って、先生の作品に初めて触った時の作品でしたので、とても懐しかったです(男女が庇の下で雨宿りをしていて、女性が左手を前に出して雨が止んだかどうか確かめている)。「海辺」と「過去の町」は、今年清里での作品展でも展示されていたものです。
 土曜会の皆さんの作品は70点くらいあって全部を見て回ることはできませんでしたが、仏像などとても良い作品が多かったです。仏像は、こんなにも細かく丁寧に作ることは、私にはとてもできないなあと改めて思いました。以下、印象に残っている作品をいくつか紹介します。
 HSさんの「ナーガ上の仏像」は、初めて触る仏像の姿で印象的でした。ナーガはインドの蛇の神で、原型はキングコブラのようです(興奮したり威嚇したりするときは、鎌首をもたげて頸部を広げるらしい)。カンボジアなど東南アジアではナーガは水を司る神としても信仰され、それが仏教と結び付いてナーガ上の仏の像がしばしば制作されたようです。この作品は、高さ40cm、幅20cm弱、奥行10cm余くらいの大きさで、高さ10cmほどの、3重に蜷局を巻いているナーガの身体を台座にして、仏が結跏趺坐しています(右手は右膝の上、左手は掌を上に向け指先を内側に向けて左腿の上に乗せている)。仏の後ろにはナーガの頸が伸びて、その先が光背のように直径十数cmのお皿のような形になっていて、そのお皿の周りから7つの頭が前に飛び出ています(一番上の中央の頭が大きく、その両側の3個ずつは小さい)。成道後のブッダがさらに禅定を続けていると、風雨が激しくなって、蛇神ナーガが蜷局を巻いて7つの頭でブッダの頭上に大きな傘をつくって守護したという言い伝えを表わしたものだそうです。
 また、Tさんの「追走劇」などもとても面白い作品でした。「追走劇」は、競馬でちょうど半馬身の差でゴールするような2頭の馬を連想させる作品でした。作品は前後の2つに別れていて、前は長さ25cmくらいの馬の前半分、そのやや斜め後ろに長さ35cmくらいの馬の後ろ半分があります。そして、面白いことに、それぞれ馬の身体の左側半分だけの立体で、しかも内側はすっかり削り取られて広いくぼみになり外側の表面だけになっています(このようにすれば、大きな立体作品もとても軽量になる)。Tさんのその他の作品も印象に残っています。「火炎飛び越え」は、直径40cm余もある火炎(それぞれの炎は髪年度のような物を使ってでしょうか、とても細かく作られていた)の中央の空間に、長さ30cm、高さ20cm余の馬が前足を入れてちょうど今にも飛び越えようとしている姿です。「悩めるバルザック像」は、手に得れた流木がロダンのバルザック像のマントにそっくりだったとかで、その流木の先に小さくうつむいている顔を彫っただけの作品です。「顔:老女 ただいま94歳マイナス20歳」は、作品解説によれば「『女性はいくつになっても美しくありたい』ようで、実際よりも20歳若くつくるのがエチケット!?ということで、皺、弛みを取ってしまいました」とのこと、確かに顔は全体になめらかで、とくに顎から口元にかけてはすっきりしていました。
 Mさんの「遠望」(テラコッタ)は、顔をやや上に向けて両手を後ろに回して腰の辺で組み、胸をそらすようにしている女性の立ち姿です。作品解説によれば、バルセロナ港にあるコロンブスの銅像が遥なるアメリカ大陸を差して遠望している姿で、そのイメージを女性像で表現したとのことです。
 Oさんの「菩薩立像」は、蓮華座の下部はテラコッタ、その上が木彫(クスノキ)だとのことですが、テラコッタと木の境目は触ってもほとんど気付かないほどでした(お顔がとてもきれいだった)。Kさんは、四天王4点(持国天、増長天、広目天、多聞天)を出品していました。
 TKさんの「今は亡き愛犬をしのんで」(2点。シュナウザー犬で、毛並みがやわらかく感じた)は、我が家の愛犬が11月19日夕に15歳で逝ってしまったこともあって、心にぐっときました。同じくTKさんの「江戸の町火消」は以前にも触れたことがあって、あの長い纏を手に持っている姿を思い出しました。Yさんの「チョウゲンボウ」や「キジバト」も、とてもリアルでよかったです。
 
 昨年同様、浮世絵すり体験と版画制作体験もしてみました(第27回 手で触れて見る彫刻展 版画の制作体験などを楽しむ)。すり体験は、昨年もした広重の「諸国名所十景 相模江の島」ですが、今度は多色刷り(3色)です。初めに海の水色の版、次に海岸を歩いている3人の傘や荷物と家並の一部の茶色?の版、最後に全体の黒の版を刷りました。色がずれることなく、うまく刷れたようです。
 版画の制作体験は、見本のクリスマスツリーの原版を参考にしてオリジナルのクリスマスツリーの原版を作り、その上に湿らせた和紙を乗せて、手回しのプレス器(ゴム製のローラー)に通して2回印刷するというものです。見本のクリスマスツリーの原版は、L字型の板やT字型の板、ねじ釘のついた円い輪などをセロテープでA4くらいの大きさの板に止めて作ってあります。私は、ツリーの本体は見本のように作り、回りの飾り的な所はオリジナルで作りました。一番上に、ねじ釘のついた円い輪5個で5つ星を作ります。その下に、L字型の板を3枚、頭点を上に向けて少しずつ離して並べます。さらにその下に、T字型の板を横棒が下にくるように置きます。そして、3個のL字型の板の間の両側に2個ずつ針金で作った渦巻型を置き、一番下のL字型の板とT字型の板の間の両側に1個ずつねじ釘のほうを斜め上に向けて円い輪を置き、さらにT字型の下に針金で根のような突起を5個作って置きます。形を作るのはいいですが、それを形がくずれることなくセロテープで板に止めるのが難しかったです。でき上がった原板を圧力を調整しながらプレス器にかけるのですが、最初は十分に形が浮き上がらず、もう1度試みてなんとかでき上がりました。
 
 今回の土曜会の手で触れて見る彫刻展、とても楽しく充実したひとときでした。皆さん、ありがとうございました。
 
(2018年12月11日)