埋設物でも材質によって,反射波の強さが違う?

波長に比べて大きい寸法の埋設物はよく波を反射する。すなわち波は回折して行かない。このことは,容易に想像がつく。無限のついたてがあるとそのついたてを波は回り込めないからである。それでは,埋設物の寸法が同じで材質が違うと,反射波の強さはどうなるだろうか?先のページで媒質と埋設物の物性が異なると反射波が得られ,最終的に埋設物像を出せると述べた。ここでは簡単のため媒質を水とし,水中に沈められたいろんな材料からなるターゲット(水中で考えるので埋設物と言う代わりにターゲットと呼ぶ)ついて,反射波の出具合を調べる。

弾性球モデルでの反射波の検討

ターゲットは色んな形をなしうる。ここでは簡単な例として球形とする。一般にターゲットが固体の場合,波があたるとターゲット中に弾性波(縦波と横波)が発生する。ここでは@弾性波(縦波と横波)を考慮した場合A縦波のみ考慮した場合について,反射波を計算する。ターゲットは,縦波速度,横波速度の速いものから遅いもの,密度の大きいものから小さいものまで種類を変える。反射波は波動方程式の級数解で求める。

反射波の程度をチェックできる有効な手法として,弾性球の反射係数を調べる方法がある。簡単に言うと,点音源から送出した音波が,遠くに置かれた無限の硬いついたてで反射され点音源の位置に戻ってきた音波の強さφを求め,次についたてと同じ位置に置かれた弾性球で反射され点音源の位置に戻ってきた音波の強さφsを求め,φsとφの比(φs/φ)をとる方法である。この値は反射係数σとして定義される。すなわち,無限の硬いついたてであれば完全反射するから点音源の位置に戻る波のレベルはもとの波のレベルと同じになり反射係数σは1となる。これを基準にすると弾性球の反射の度合いが判るのである。実際,弾性球はついたてより小さいから回折して拡散して行く波(前方散乱波と呼ぶ)も考えられる。一方で弾性球は,弾性を持っているがゆえに,ある周波数で共振し大きな反射波を生む場合もある。このとき反射係数σは1以上となる。これらは計算することによって判る。表1に計算に用いた弾性球の材料定数を示す。又媒質(水)の密度は1000kg/m,縦波速度cを1410m/sとする。図a〜図gに表1の各材料を用いたタ―ゲットの反射係数結果を示す。横軸のkaは,媒質の波数kと弾性球の半径aの積(無次元数となる)で表す。ここで波数kは,周波数fと媒質の縦波速度cを用いてk=2πf/cと示され,このときの波長λを用いてk=2π/λと示される。すなわち周波数一定でkaを大きな値に変化させることは,弾性球の半径を大きく変化させることに相当し,弾性球半径一定でkaを大きな値に変化させることは,周波数を高いほうに変化させること相当する。反射係数について,音響インピーダンスによる検討も加えた。媒質とターゲットの材料の違いによる音波の透過度合いを判断する目安として,音響インピーダンスがある。

媒質とターゲットの密度が近ければ,また媒質とターゲットの縦波速度が近ければ,音波は両者を透過しやすいだろう。極端な場合,まったく媒質と同じものがターゲットであれば音波の反射は無い。その透過のしやすさを示す目安として密度と縦波速度の積で表す量が音響インピーダンスである。

 

 

表1 材料定数

弾性球材料

密度(kg/m

ポアソン比

縦波速度(m/s)

横波速度(m/s)

ベリリウム

1870

.05

12890

8880

融解石英(クウォーツ)

2200

.17

5968

3764

7700

.29

5960

3240

アルミニウム

2700

0.355

6420

3040

真鍮

8600

0.374

4700

2110

ルーサイト(アクリル樹脂)

1180

0.4

2680

1100

空気

.2

340

 

 

反射係数の計算結果

 

 

図a ベリリウム球の反射係数

縦波と横波を考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。σ=0.5である。ka=1では,球の全周がちょうど一波長に相当し,球に正対して入射する音波が球の右と左でちょうど半波長回折したこととなる。kaが2でσ=1となり完全反射が起こる。ka=2.2で第二の共振が起こりσ=1.2である。しかし第二の共振はka=2より高めであるから,入射音波が球周りを一波長以上回折して二次共振が発生する。球の場合,kaが倍々となるところに共振が現れないようである。

 

縦波のみを考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。縦波と横波を考慮した場合と同じく,そのσの値は0.5である。更に縦波と横波を考慮した場合も,縦波のみ考慮した場合も,反射係数はkaが1.8以下の範囲でほとんど同じである。したがって,この範囲では横波の影響を受けないことが判る。一方,kaが1.8以上では,縦波と横波を考慮した場合に比べて差が大きい。反射係数の第二のピークは高々σ=0.7に止まる。kaが1.8以上では横波がベリリウム球の縦波振動にカップリングし大きな振幅を発生すると考えられる。

 

音響インピーダンスによる検討

ベリリウムの音響インピーダンスは2.39×107kg/m/sで,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sより17倍大きい。よって低周波でも弾性球と水との物性値が差があり反射が発生する。

 

参考

一例として,ベリリウム球半径a=0.23m(球周1.44m)とすると,ka=1の一次共振ピークで周波数は976Hzとなり,二次共振での周波数は,2.15kHzとなる。ターゲットからの完全反射を得ようとすれば, 2.15kHz程度の周波数で音波を打つ必要がある。

 

図b 融解石英球の反射係数

 

縦波と横波を考慮した計算結果

ベリリウムと似たような反射係数を示す。kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。σ=0.5でベリリウムの一次共振レベルとほぼ同じである。ka=2.1で第二の共振が起こりσ=1.35である。ベリリウムに比べて反射係数は,やや大きい。

 

縦波のみを考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。縦波と横波を考慮した場合と同じくσ=0.5である。更に縦波と横波を考慮した場合も縦波のみ考慮した場合も,反射係数はkaが1.8以下の範囲でほとんど同じである。この範囲では横波の影響を受けないことが判る。一方,kaが1.8以上では,縦波と横波を考慮した場合に比べて差が大きい。反射係数の第二のピークは高々σ=0.7と小さい。

 

音響インピーダンスによる検討融解石英球の音響インピーダンスは1.31×107kg/m/sで,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sより18.5倍大きい。融解石英と水の物性値の差は,ベリリウムと水の物性地の差とあまり変わらない,kaが1.8以上では横波が融解石英球の縦波振動にカップリングし大きな振幅を発生すると考えられる。

 

 

図c 鉄球の反射係数

 

縦波と横波を考慮した計算結果

ベリリウムや融解石英と異なる反射係数を示す。kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。しかし融解石英より反射係数は大きくσ=0.8である。一方ka=2.3で第二の共振が起こるがσ=1.15で融解石英の場合より小さい。

 

縦波のみを考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。縦波と横波を考慮した場合と同じくσ=0.8である。更に縦波と横波を考慮した場合も縦波のみ考慮した場合も,反射係数はkaが2以下の範囲でほとんど同じである。この範囲では横波の影響を受けない。一方,kaが2以上では,縦波と横波を考慮した場合と差が小さい。反射係数の第二のピークはほぼ完全反射でσ=1である。

 

音響インピーダンスによる検討

鉄の音響インピーダンスは4.59×107kg/m/sで,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sより32.6倍大きい。鉄と水の物性値の差は,ベリリウムや融解石英の場合に比べてはるかに大きく,図のように鉄球では,ベリリウムや融解石英よりも低い周波数から大きな反射が得られる。またkaが3以下の範囲で,横波が鉄球の振動にカップリングす影響は少ないと考えられる。

 

図d アルミニウム球の反射係数

 

 

縦波と横波を考慮した計算結果

融解石英とよく似た反射係数を示す。kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。その値σは0.6で,ベリリウムや融解石英の一次共振ピークより少し大きい。ka=2.2で第二の共振が起こりσ=1.35である。融解石英とほぼ同じである。

 

縦波のみを考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。縦波と横波を考慮した場合と同じくσ=0.6である。更に縦波と横波を考慮した場合も縦波のみ考慮した場合も,反射係数はkaが1.8以下の範囲でほとんど同じである。この範囲では横波の影響を受けない。一方,kaが1.8以上では,縦波と横波を考慮した場合に比べて差が大きい。反射係数の第二のピークは高々σ=0.7である。

 

音響インピーダンスによる検討

アルミニウムの音響インピーダンスは1.73×107kg/m/sで,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sより12.3倍大きい。kaが1.8以上では横波がアルミニウム球の縦波振動にカップリングし大きな振幅を発生すると考えられる。

 

 

 

図e 真鍮球の反射係数

 

 

 

縦波と横波を考慮した計算結果

鉄とよく似た反射係数を示す。kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。鉄と大体同じで反射係数はσ=0.8である。一方ka=2.3で第二の共振が発生する。しかし鉄よりは大きい共振レベルを示しσ=1.25である。

 

縦波のみを考慮した計算結果

kaが1で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。そのピークの値は,縦波と横波を考慮した場合と同じくσ=0.8である。更に縦波と横波を考慮した場合も縦波のみ考慮した場合も,反射係数は,kaが2以下の範囲でほとんど同じである。この範囲では横波の影響を受けない。一方,kaが2以上では,縦波と横波を考慮した場合と差が小さい。反射係数の第二のピークはほぼ完全反射でσ=1である。

 

音響インピーダンスによる検討

音響インピーダンス密度は4.04×107kg/m/sで水の音響インピーダンス密度1.41×10kg/m/sより,28.7倍大きい。真鍮球では,ベリリウムや融解石英やアルミニウム球よりも低い周波数で大きな反射が得られる。その点で鉄球と非常に良く似ている。またkaが3以下の範囲で,横波が真鍮球の縦波振動にカップリングする影響は少ないと考えられる。

 

 

              

図f ルーサイト球の反射係数

 

縦波と横波を考慮した計算結果

ベリリウム球,融解石英球,鉄球,アルミニウム球,真鍮球のいずれとも異なる反射係数を示すkaが1.3で反射係数の一番目の共振ピークが現れる。σ=6.8の,きわめて高い反射が得られる。kaが2.1で第二の共振が起こりσ=6で,これも大きい反射を示す。又反共振においても一番目はkaが1.9でσ=2.1,二番目はkaが2.5でσ=1.8と完全反射を大きく上回っていることが判る。一方kaが1以下においては極めて反射係数が小さい。

 

縦波のみを考慮した計算結果

共振ピークは現れていない。反射係数はkaの増大に対して滑らかに変化し最大でも0.3ぐらいである。kaが1以下の範囲では,縦波と横波を考慮した場合と同じ小さな反射係数を示し一致している。kaが1以下の範囲で,反射係数は横波の影響を受けないことが判る。一方,kaが1以上では横波がルーサイト球の縦波振動にカップリングし大きな振幅を発生すると考えられる。

 

音響インピーダンスによる検討

ルーサイト球の音響インピーダンスは,3.16×10kg/m/sであり,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sの高々2.2倍である。kaが1以下で小さい反射係数を示すのは,ルーサイト球の音響インピーダンスが周りの水と近い値であり,音波の大部分が球周りを回折するよりもルーサイト球内部へと透過するためである。透過する波が多ければ反射する波は少ない。

 

 

図g 空気球の反射係数

 

計算結果

ベリリウム球,融解石英球,鉄球,アルミニウム球,真鍮球ルーサイト球のいずれとも異なる反射係数を示す。反射係数の共振ピークはkaが小さいところに発生し,kaの増大と伴になだらかに減少し1に近づく。したがって空気の場合はほぼ完全反射体である。

 

音響インピーダンスによる検討

空気の音響インピーダンスは,4.08×10kg/m/sで,水の音響インピーダンス1.41×10kg/m/sに比べてはるかに小さい。このように音響インピーダンスの点からも空気球は,周りの水と全然異なる。よって音波を良く反射する。

まとめ

 

音響インピーダンスの大きい鉄や真鍮では,高い反射係数を示す。材質の密度が大きいのが一つの理由である。ついで音響インピーダンスの大きいベリリウム,融解石英,アルミニウムなどのグループでは,低周波で鉄や真鍮の6割程度の反射係数を示すが,高周波において鉄や真鍮より高い反射係数を示す。ルーサイトでは低周波においてほとんど音波透過し反射係数が小さい。空気では音響インピーダンスが極めて小さいため,低周波から大きい反射係数を示す。鉄や真鍮では,高周波でも,ほとんど縦波の振動解析で反射係数が求められるが,ベリリウム,融解石英,アルミニウムなどのグループでは横波の影響が大きく出る。その結果高い反射係数を示す。

 

参考文献:

R.Hickling; “Analysis of Echoes from a Solid Elastic Sphere in Water,” J.Acoust.Soc.Am.vol.34,no.10,pp1582-1592,(1962)

 

 

 

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