アレイ信号処理法による埋設物探査システムの開発

地中の空洞や埋設物の音波探査で問題となるのが,探査像の分解能である。簡単な例として,一個の送波器で音波を地中に打ち一個の受波器で反射を受けて探査する場合を考えよう。送波器で打たれた音波が当たった一点の反射情報が受波器で受波できれば探査像が得られる。すなわち探査点の反射強度と受波データとが一対一で対応しているからである。ところが,このような理想的な状況はまれであり,現実には音波は広がり,多数の反射点からの反射情報が受波器に集まることとなる。この場合探査像の分解能は得られない。分解能を上げるために,一個の送波器から発生する音波ビームを狭くするように高周波で音波を打つことが考えられる。しかし高周波では地中の減衰が大きいので十分な反射波が得られない。一方低周波では,減衰は少ないが前述の音波が広がり分解能の劣化をきたす。このような問題に対し,前のページで述べた送波器群または受波器群からなるアレイを構成し,音波取り込み方向を絞るフォーカシング(ビームフォーミングとも言う)技術が有効となる。ビームフォーミングでは,フォーカスした所望方向以外のいろいろな方向から受波器アレイに到来する音波を相殺できる。その意味において,アレイは空間フィルタの機能があり,ノイズ低減に有効となる。更に基本的なことであるが,単体の送波器,受波器を対で地表面を移動しながら地中探査するのと異なり,アレイを用いる方法では固定した受波器アレイ下の範囲の連続地中像が,一度に得られる利点がある。

そこで実際に,送波器アレイ,受波器アレイを設計し,地中に埋設物として塩ビパイプとコンクリートブロックを埋めて探査を行った。探査成果は良好であった。以下に,アレイ信号処理法による埋設物探査システムの紹介をする。

 

アレイ信号処理法による埋設物探査システム

 

概要

  表層における埋設物探査のため,地表面に置いた送波器アレイで音波を発振し地中からの反射波を受波器アレイで受けて,信号処理し地中断面像を求めて埋設物を認識するシステムを開発した。

 

 

適用範囲

  現在,地中2m強までの地中深度に埋設された複数の物体の鉛直断層像再生可能。

 例:地中――山砂,埋設物――中空塩ビパイプ,コンクリートブロック

 

 

 

方法

 

 

  送波器アレイ軸(送波器を直線状に並べた軸)を含む面内で指向性を形成し,指向性の一番強い断面(像再生面)における地中からの反射波を,送波器アレイ軸に直交した受波器アレイで受波しビームフォーミングを行って,像再生面の断層像(反射強度に応じた濃淡画像)を得る方法である。この方法によると,送波ビームと受波ビームの最大のところで大きな感度を持つので,像再生面の反射波情報を取り込むことができる。図1に地中埋設物と送受波器アレイ構成と像再生手順を示す。

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 1.	像再面で送波出力を最大化するようなビームを
     形成するため,像再生面に垂直なX軸に送波器
     を並べる。 
                
2.	送波器アレイ,各送波器から同相同振幅の
     広帯域音波を地中に向けて発振する。
                                                                                                     
                                                                                                
(事前に,受波器アレイ部分の音速を測定しておく。)

テキスト ボックス: 3.像再生面の反射波を,送波器アレイ軸に直交した受波器アレ
イで受波する。     
                                             
4.受波信号のフーリエ変換(時間領域 → 周波数領域 ) 
                                             
5.受波データの周波数成分を用い,像再生面でビームフォーミ
ングし像再生する。(焦点を合わせ,方位分解能を得る処理)
                                            
6.再生像を加算する。
                                            
7.周波数を変えて,5,6の処理を実施する。(マルチフレケンシ
ー法を適用し,距離分解能を得る処理)
                                            
8.得られた再生像から物体の認識をする。

図1  地中埋設物と送受波器アレイ構成と像再生手順

 

                                                                                                 

特徴

  図1の手順によって探査を実施する。ただし,ここでは以下の工夫を加えた。受波器アレイの受波信号は受波器間で少しずつ位相の異なる反射情報を持っている。それを活かすため受波器アレイを小開口に分け,小開口にスムージングした感度重みを与え,小開口ごとにビームフォーミングした像を加算するようにした。この方法を開口分割法と呼ぶ。これにより見え方の改善と,受波器アレイの位置誤差も改善される。この開口分割法を用いる。

実験では,図1の地中媒質を山砂とし、山砂中に埋めたパイプと,コンクリートブロックの像再生を行った。図1のような,送波器を原点に置いた直交座標XYZ(但し,Z軸を媒質中にとる)を取る。今実験ではYZ面内にパイプの円形断面とコンクリートブロックの矩形断面が含まれるように,パイプとコンクリートブロックが埋められている。パイプの直径30cm,埋設深度Z=.2m,コンクリートは地表面から見て30cm×30cmの正方形,Z方向に15cmの厚みを持ったもので埋設深度Z=.7mである。送波器アレイは電磁誘導型送波器(上限周波数1KHz)を3個並べて構成し,受波器アレイは加速度計ピックアップを16個並べて構成した。上限周波数は1KHzとした。

図2−1に受波器アレイの小開口分割と感度重みパターン,図2−2に受波器アレイを7種類の小開口アレイ(小開口1,小開口2,---小開口7)に分けたときの再生像,図2−3にそれぞれの再生像を二乗平均で重畳した再生像を示す。像の強度を8階調(一番強い反射強度を示すところを黒とし,弱いところを白)に分けた濃淡画像で表示する。また,パイプの真の位置を赤い円の破線で,コンクリートブロックの真の位置を赤い矩形の破線で示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 開口分割法により合成し
た再生像(ノイズが低減
され改善される。)

 

 

図2−3  再生像を二乗平均で重畳した再生像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 小開口1での像

テキスト ボックス: 小開口2での像

テキスト ボックス: 小開口7での像

 

図2−2 7種類の小開口アレイに分けたときの再生像

 

図2−1 受波器アレイの小開口分割と感度重みパターン

 

図2−2から,それぞれの小開口アレイ単独を用いた再生像では見え方が悪いが,図2−3の二乗平均で重畳した再生像では,ノイズが低減されシャープな像となる。このように開口分割法,ノイズ低減効果のあることが判る。本システムにおいては,(埋設物体の最大寸法/上限周波数における波長)=0.62の波長より小さな物体も探知できる。(埋設物体間距離/上限周波数における波長)=2.3の場合でも分離再生できる。一般に難しいとされる接近した埋設物の分離像再生が可能である。

 

 

 

 

 

 

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