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「神に起こされた石ころ」にすぎないけれども

                              金田佐久子
 私の教会との関わりは、キリスト者であった母が、私たち娘を西川口教会の教会学校に行かせたことから始まりました。以来、細々と教会学校につながっていましたが、中学三年の夏休みに参加した中高生の集会で、主イエスの十字架の死が私の罪のためであったことが明確に示され、その年のクリスマス礼拝で洗礼を受けました。
 大学では、好きで得意でもあった化学を専攻しました。卒業の頃はバブルのただ中で就職に困ることはありませんでした。先輩の紹介で、あるプラスチック加工メーカーが研究開発の部署に初めて女性を採用したいということで、その試験を思い切って受けました。そして、総合職として採用され、専門の化学を生かしながらチームで働く体験をしました。
 就職した頃、あるきっかけから第三世界に興味を持ち、キリスト教系NGOの会員になりました。そのうちに、第三世界の困難な状況に自分に何かできることはないだろうかと考え始めました。そのため英語を勉強しなおしたり、学びの会やフィリピンのワークキャンプに参加したりしました。さらに想いは深まり、貧しい人々や子どもたちに直接に仕える海外での奉仕者になるための研修にも参加しました。条件が整ったら、その奉仕者に何とかしてなりたいと願って準備を進めていました。
 そんな時、突然、母が持病の喘(ぜんそく) 息の発作のため亡くなりました。だいぶ体力も落ちていた母でした。そのとき誰もいなくて助けることができなかったのです。母が死んで父が残され、私と妹が同居することになりました。母を失った大きな悲しみと共に、自分の願いが挫折し、傷つきました。しかしそんな中でも、示されたことがありました。「母がいなければ果たせなかったことであるのならば、違うのではないだろうか。母を頼るのではなく、主なる神にのみ頼っていくべきではないだろうか」。
 母の死から約一年後の一九九七年二月、西川口教会は祈りの集いであるアシュラムの講師に、今は亡き酒井春雄牧師(当時、新潟・栃尾教会)をお迎えしました。アシュラム集会の後、酒井先生の信仰自叙伝『恩寵あふるる―これらの石ころからでも―』を読みました。この本に酒井先生が献身へと導かれた出来事が書かれていました。銀座教会の信徒であった酒井先生が、当時の銀座教会名誉牧師の渡辺善太先生に献身のことを相談しました。渡辺先生は酒井青年にこのように答えたといいます。
 「君は聖書の中にこんなみ言葉があるが知っているか。『神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起すことができる』(ルカ3・6口語訳)。その思いが、神が起してくれたものなら必ず実現するが、人間の思いであれば、どんなに条件が揃ってもだめになる。伝道者になりたいという思いが、神からか、自分からか、わかる道は一つだけある。状況がどうであろうがそのための準備をし、何年かかっても学び続けること。目的を達成したら、神の起してくれたことだから思い切り働きなさい。もし中途で挫折し、み旨ではないと知っても失望するな。神は、信じる者の努力を無駄にはなさらない。(中略)大切なのは神から出された宿題に、まともにぶつかってみるかどうかということだ」
 読んでいた私も渡辺善太先生のこの言葉に心を動かされました。その頃、自分がこれからどうしていけばよいのかを祈り求めていたからです。やがて「用いていただきたいという思いは変わらない。神が起してくださるならば実現する。神と教会のために献げよう」との思いに至りました。
 生活のために仕事を続けながら、教団補教師検定試験をCコースで受験しました。通勤電車の中で、神学書を読みふけりました。三年かけて教師検定試験に合格し、会社を辞め、二〇〇〇年四月に母教会である西川口教会に招かれて現在に至ります。
 今日まで守られてきたのは、神が私を起こしてくださったからだと信じています。思い切り働いて、救いのために用いられることを喜んでいます。約三年前のクリスマス礼拝では、ずっと同居している高齢の父が洗礼を受けました。私は自分の父親に洗礼を授けるという恵みにも与(あずか) りました。
 献身の導きとなった聖書の言葉から、自分のことを「神に起こされた石ころ」に過ぎないと常々思っています。さらに、アブラハムの子孫として祝福の中に加え入れられたことを心から感謝している日々です。

(「信徒の友」(日本キリスト教団出版局) 2011年4月号、「神に呼ばれて」に掲載)



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