あまんじゃく

ヒューヒューヒュー外は北風が吹いています。風の音にまじって哀し気な声がただよってきました。
「あけてけろ あけてけろ 外は寒い 家の中に入れてけろ・・・」
女の子は布団を頭までかぶって耳をふさぎ、じっと耐えていました。


朝になって女の子は、ジジイとババアに言いました。
「ジジイ、ババア、夜中に外で声がするぞ。」
「どんな声じゃった。」ジジイが聞くと、女の子は言いました。
「あけてけろ、と言っとった。」
ジジイとババアは顔を見合わせて言いました。「そいつはきっと“あまんじゃく”じゃ。絶対に開けてはいかんぞ。」
ババアも言いました。「“あまんじゃく”は最初の日は指を一本、次の日は指を二本と増やしていき、最後には入ってきて娘を食べると言われとる。」
ジジイは言いました。「さっそく氏神様のお札を貰ってくるとしよう。」


その日の夜、女の子が雨戸にお札をはって寝ていると、また外で声がしました。
「あけてけろ あけてけろ 外は寒い 家の中に入れてけろ・・・」
ひょ〜ひょ〜と外ではヌエが気味の悪い声で啼いています。
「外は寒い 指一本だけでも入れてけろ・・・」
女の子は思いました。「なんと哀し気な声じゃろう。お札もあるし、指一本だけなら良いじゃろう。」
女の子はとうとう雨戸を開けてしまいました。指一本入るすきまから、節くれだった細い指がぬっと入ってきました。
「あったけえ あったけえ 指一本だけでもあったけえ・・・」


次の日の夜も、また“あまんじゃく”はやって来て言いました。
「外は寒い 指二本だけでも入れてけろ・・・」
女の子は、指二本だけなら良かろうと、指二本ぶんのすきまを開けてやりました。
「ありがてえ 指二本だけでもありがてえ・・・」


また次の日の夜も“あまんじゃく”はやって来ました。
「外は寒い 指三本だけでも入れてけろ・・・」
女の子が指三本ぶんのすきまを開けてやると、細く節くれだった指がぬっと三本入ってきました。ところがどうしたことか、手のひらが入ってきて、腕も入ってきて、とうとう体まで入ってきてしまいました。なんと“あまんじゃく”には指が三本しかなかったのです。
女の子が悲鳴をあげる間もなく“あまんじゃく”は女の子の喉をつかみ締め上げました。女の子はがっくりと気を失ってしまいました。
“あまんじゃく”は女の子の口の中に手をつっこみ、女の子の中身をひきずり出すと、外にほうり投げました。外では待ち構えていたヌエたちが女の子の中身をむさぼり食べてしまいました。


“あまんじゃく”は女の子の皮を着込むと何事もなかったように布団に入りました。


朝、女の子はジジイとババアに言いました。
「おじいさま、おばあさま、お早うござります。」
ババアは言いました。「昨晩も“あまんじゃく”は来たかえ?」
「いいえ“あまんじゃく”は来ませんでした。“あまんじゃく”はもう来ないでしょう。」
ジジイは言いました。「それは良かった。じゃがお札はそのままにしておくのじゃぞ。」
「はい。そのままにしておきます。」
“あまんじゃく”は女の子になりすましてしまいました。






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