それから数年が過ぎ、女の子も美しい娘に育っていました。
ある日、娘は言いました。「おじいさま、おばあさま、わたしも年頃になりました。嫁に行きとうございます。」 ジジイはたいそう喜んで言いました。「そうか、そうか、それは良い考えじゃ。ではさっそく婿を探すとしよう。」 娘は近隣の村でも評判の美人でしたから、たくさんの男たちが集まりました。 娘は男たちに言いました。「わたしの婿になるものは金持ちでなければなりませぬ。」 多くの男が帰っていきました。 残った男に言いました。「わたしの婿になるものは山持ちでなければなりませぬ。」 また多くの男が帰っていきました。 娘はさいごに言いました。「わたしの婿になるものは、いままでも、これからも、私以外の女を愛してはなりませぬ。」 残った男は二人だけでした。 娘は残った男のうちの一人に言いました。「お前はすでに女を愛したことがあるはず。」 男は無いと言い張りましたが、娘は頑としてうけつけませんでした。男は怒って帰っていきました。 さいごに残った男は、金持ちで、山持ちで、いままで女を愛したことのない男でした。 旅の僧がいました。道ばたの石に腰かけ、にぎりめしを食べていました。 『デデポーポー デデポーポー』山鳩が来てにぎりめしを食べたそうにしていました。 僧はめし粒を鳩に与えて言いました。「鳩よ、近頃おもしろい話はないか。」 すると鳩は言いました。『もうじきここを おもしろい花嫁行列が通ります デデポーポー』 「ほう、それではしばらく待つとしよう。」僧はゆったりと座りなおすと、お経を唱えはじめました。 山鳩はめし粒を食べおえると、近くの木の枝にとまりました。 しばらくすると花嫁行列がやってきました。 山鳩が啼きました『デデポーポー おかしな花嫁行列がやって来た 化け物の花嫁にだれも気付いておらぬとは なんと滑稽なことじゃ デデポーポー』 行列が近くまで来ると、僧が行く手をさえぎりました。 「しばし待たれよ!」 「なんでございましょう、お坊さま」ジジイがいぶかしげに聞くと僧は言いました。 「その花嫁は化け物じゃ。だれも気付かぬのか!」 ジジイは驚いて言いました。「何をおっしゃいます、お坊さま。これはわたしの大事な孫娘にございます。」 すると僧は娘に近づき、小指を一本ひきちぎりましたが、なんと小指の中には綿がつまっていました。 僧は言いました。「お前は“あまんじゃく”だな!娘に化けて子作りか!」 “あまんじゃく”は、あわてて逃げ出そうとしましたが、娘の中で大きくなったため、なかなか皮がぬげません。とうとう大勢の村人たちに取り押さえられてしまいました。 ジジイもババアも泣きました。「なんということじゃ・・・かわいい孫娘が“あまんじゃく”じゃったとは・・・なんとも口惜しい!なぶり殺しにしてくれる!」 ジジイが娘の皮をひっぺがすと、村人たちも寄ってたかって娘の皮をはがしました。 しかし皮をはがれた“あまんじゃく”は娘の皮の中で育ったためか娘に瓜二つでした。 “あまんじゃく”は言いました。「もう少しで子を作れたものを・・・無念じゃ!無念じゃ!!」 ジジイは、なぶり殺しにするのが偲びなくなり、棒杭に“あまんじゃく”を縛りつけ、川の中に打ちつけました。“あまんじゃく”はしばらくもがいていましたが、そのうち動かなくなりました。 死んだ“あまんじゃく”は指がたりない以外は娘そのままでした。祟りを恐れた村人は、旅の僧にお経を唱えてもらい、“あまんじゃく”を祭る祠を建てて供養しましたとさ。 終わり |
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