第ニ章  たすけた亀につれられて・・・

 次の日、太郎は砂浜にすわりこんで海を見ていました。
「竿も網もなしに、どうして魚がとれようか。」
いくら知恵をしぼっても良い考えがうかびません。
すると風にのって声がきこえてきました。
「太郎さん・・・太郎さん・・・」
太郎はきょろきょろ辺りを見まわしましたが誰もいません。
空耳かと思っていると、また「太郎さん・・・太郎さん・・・」
耳をすましてみると、その声は海のほうからでした。太郎は大きな声で言いました。
「おれの名前を呼ぶのは誰だ!」
すると波間から大きな海亀が現れました。亀は言いました。「きのうは子亀をたすけてくださってありがとうございました。」
「ああ、そのことか。おかげで今日は漁もできずに、こうして海をながめている有り様さ。」
すると亀が言いました。「そのお礼に竜宮城の乙姫様から、太郎さんをお連れするようにと言われて来ました。今からぜひ竜宮城まで来てください。」
太郎は考えて言いました。「おれには病気の母がいる、母を残して竜宮城など行けやしない。だいいち海の中じゃ溺れてしまう。」
すると亀が言いました。「大丈夫ですよ太郎さん。ちゃんと息はできますよ。それにすぐに帰ればいいでしょう。乙姫様は何でも太郎さんの望むものをくださいますよ。」
太郎はおどろいて聞きました。「乙姫様ってのは神様か?」
「いいえ違います。でも神様の想いを実行する者です。」
「良くわからんが、乙姫様は竿をくれるだろうか?」
「太郎さんが望むなら。」
「魚籠もくれるだろうか?」
「太郎さんが望むなら。」
「・・・母の病を治す薬をくれるだろうか?」
「もちろん、太郎さんが望むなら。」
太郎はとうとう竜宮城へ行く決心をしました。「わかった。おれを竜宮城へ連れていってくれ。」
すると亀は言いました。「では私の背中に乗ってください。」
太郎が亀の甲羅の上であぐらをかくと、亀は海の中には行っていきました。だんだん水が上がってきて、とうとう太郎の頭も水の中に入ってしまいました。さいしょ息を止めていた太郎も我慢できず、こわごわ息をしたとたん肺に水が入ってきました。太郎は苦しくて咳き込むと、さらに大量の海水が入ってきます。
「ゲホゲホ!」
「太郎さん。ゆっくり水を吸ってください。いま肺が水中の酸素を吸えるように繊毛をのばしているのです。」
太郎が言われたとうりに、ゆっくり水を吸い込むと、なんと息ができるではありませんか。
「最初は少し苦しいかもしれませんが、すぐに慣れるのです。」亀は誇らし気に言いました。
「もうじき竜宮城です。竜宮城に着いてもてなしを受けたら、すぐに帰ってきて下さい。乙姫様が引き止めても帰ってこなければいけませんよ。」
「わかっているよ。早く帰らなければ母も心配してしまう。」
「竜宮城は現世ではありません。長くいると大変なことになってしまいます。」
「長くいるとどうなるんだい?」
「それは・・・・」
亀は口ごもってしまいました。



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