第四章  あそびに飽きて気がついて・・・

 翌朝やさしい声で目をさますと乙姫が言いました。「朝の宴の用意ができています。」
太郎は今日こそは帰らねばと思いながら食事を始めると、気がつくともう夜になっていました。何と楽しい時間でしょう。あっという間に時間がたってしまいます。
夜にはまた乙姫のもてなしで、ぐっすり眠ってしまいます。
 何日たったのでしょう。太郎はぼんやりした頭で考えます。「母はどうしているだろうか。きっと村人がめんどうをみてくれているに違いない。」

 そんなある日、太郎の前に亀がやってきました。
「やあ!お前はいつかの亀ではないか!こんなところで何をやっているのだ。」
「太郎さん何をやっているのですか。私はあなたに、すぐに帰ってきてくださいと言ったはずですよ。」
「そんなことを言ったかい?」
「ええ言いました。あなたは病気の母親に薬をもらって帰りたかったはずです。あなたはずっとここにいることは出来ないのですよ。」
「おお!そうだった!何で忘れていたのだろう。母はどうしているだろうか?あれから何日たったのだろう。」
太郎はすぐに乙姫のところへ行き、帰ることを告げました。
「太郎、もう帰ってしまうのですか?やっと楽しくなってきたところだというのに。太郎が帰るとまたひとりになってしまいます。何年も、何十年も、何百年もひとりなのです。」 
太郎は力をふりしぼって言いました。
「おれには病気の母がいます。おれが魚を捕って帰らなければ食べるものがないのです。」
乙姫は悲し気にいいました。「わかりました。残念ですが仕方ありません。わたしはまた貴方のような方が来るのを待つことにしましょう。」
乙姫は振り返りいいました。「しばらくお待ち下さい。みやげを用意いたします。」
しばらくすると乙姫はりっぱな箱を持って現れました。
「これは玉手箱という宝の箱です。この中には、あなたの望むものが入っています。」
太郎は言いました。「こんな箱に釣竿が入るだろうか」
「あなたがそれを望むなら。」
「魚籠も入っているだろうか。」
「あなたがそれを望むなら。」
「母の病が治る薬が入っているだろうか。」
「あなたがそれを望むなら。」
「・・・・」
太郎は箱をみつめて考えました。「いったい何が入っているのだろう。」




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