川村百合子


国際エンゼル協会代表
バングラデシュで孤児院を運営


 兵庫県伊丹市にあるNGOのボランティア団体「国際エンゼル協会」は、平成14年に創立20周年を迎える。主な活動はチャリティバザー、コンサート、国際交流イベント、映画の自主上映会などである。それらの募金活動で得た収益金をアジアの開発途上国へ直接援助している。 

 特にバングラデシュでは、首都ダッカから車で一時間ほどの所にあるコナバリ村に八千六百坪の広大な敷地の孤児院エンゼルホームを建設し、現在七十名の児童が緑に囲まれた美しい環境の中で、のびのびとした生活を楽しんでいる。

 当初の活動は孤児を預かる施設の運営ということからスタートしたが、今では貧しい農村女性を助けるための自立支援センター、職業訓練所、農業研修センター、診療所、学校建設、奨学資金制度などの事業を幅広く行っている。

側面から自立を支援

 ただし、エンゼル協会の援助の在り方は、一方的な善意の押し付けにならないように真の国際援助を目指しており、運営方法も現地の人に参加してもらい、バングラデシュの人たちが、やがては自分たちで完全に自立できるようにあくまで側面から手を貸している点にある。

 また、毎年、春と秋には学生や社会人の希望を募って、井戸掘りやトイレ作りなどの支援をしながら、ワークキャンプや国際理解を深め合うことを目的とした成人対象のスタディツアーも実施している。

 この協会の活動の主体となるのは、主に子育てを終えた国内の三百名近くの主婦層。他には奨学資金を援助する里親会員たちで成り立っている。

 そうして集まったお金はすべて対外援助に使用し、毎年六千万円もの援助金をバングラも含めて海外数ヶ国の貧しい人々に送りつづけている。このように国際エンゼル協会の活動は、他の一般的な民間のボランティア活動の域をはるかに越えているといっても決して過言ではない。



次女の「真理」で愛を実践
 
その国際エンゼル協会の代表を務めるのが川村百合子さん(74才)。川村さんには二人の娘がおり、次女の直子さんは生まれついての脳性まひだった。娘の病気を治したい一心で、川村さんはあらゆる手立てを尽くして走り回った。各地の病院回りから、はては易者や霊能者まで頼り、直子さんの症状が少しでも良くならないものかと方々を歩き回った。

しかし、脳性まひは病気ではないので治る見込みがないと悟るまでの十数年間は、川村さんの心は地獄の苦しみだったという。「障害のあることが不幸でつらいことだと思っている間は、つらく苦しい日々でしたが、振り返ってみますと、娘の周囲にはいつもやさしい人たちが手をさしのべて下さっていました」と川村さんはにこやかに語る。

 直子さんは大変聡明な人で、高校を卒業する時、これまでみんなに支えられてきたお返しに、大学に入学して福祉を学び、卒業後は福祉一筋に生きたいと川村さんに申しでた。そして某大学の福祉科に入学し、学友に助けられながら一人で寮生活を始めた。ところが、大学を卒業する年に直子さんに非常に不思議な現象が起こった。聖霊が直子さんに降臨して「真理」を人々に説きだしたのである。しかし、川村さんはとっさにそのことが信じられず、何か悪い霊でも憑いたのではないだろうかと、うろたえたという。

 しかし、直子さんの語る愛についての言葉は人々を感動させ、たくさんの人が病気や悩みから開放され、奇跡としか思えないことが次々に身の回りに起こりだした。そして多くの人が直子さんや川村さんの回りに集まりだした時、直子さんは突然、川村さんにこう宣告した。

「私は今まで、さんざん神さまの愛についてお伝えしてきました。でも、みなさんはいつまでたっても自分のことばかり相談にきます。お母さんは、私を教組にしようと言うのですか。人が悩みを解消できるのは、他人のために『愛』を実現していくことしかないのです。もう私はこれ以上お話しすることはありません。これからは人のために働いてください」

 そう言って家に引きこもり堅く口を閉ざしてしまった。

「沈黙」の教えに導かれて

 途方にくれた川村さんは、支援してくれる人々とともに手探りの試行錯誤を繰り返し、発展途上国への援助活動を開始した。

 それから19年、伊丹市の国際エンゼル協会で開かれる春と秋のバザーの入場者数は毎回増えつづけ、売上も一日で300万円を超えるほどになった

 そして、今でも直子さんは依然として完全に沈黙の生活を続けている。この十九年間、外には一歩も出ることなく、ひたすら人々の心が愛に満たされて、無償で人のために奉仕することの喜びや満足感が、人間にとっていかに大切であるかということを、沈黙の教えで導いてくれているのである。


この人の話

正しい母性が子どもに夢と希望を与える

 私は身体の不自由な娘を授かったおかげで「人間としての真の幸せとは何だろう。人間が本当に正しく生きるとはどういうことなのだろう」と、深く考えることができ、今ではとても幸せだったと感謝しています。

人は誰でも、この世に生まれて幸せに生きる権利を与えられているのですが、さまざまな問題があるために、苦しみから逃れられないでいるのではないかと思います。国際エンゼル協会はみなさまの温かいご支援に支えられて、来年で20年目を迎えますが、その間、途上国への援助活動を通して、その国の貧しさを云々するよりも、私たちの心の貧しさこそが問題であるということを学ばせていただきました。

 それを改善していくために、途上国の人々とお互いに助け合い、ともに生きることを学びながら、私たち自身のライフスタイルを根本的に考え直していくことの大切さも学びました。

 私たちは便利さを追求するあまり、物欲や金銭欲に走りすぎ、その見返りとして本来私たちが持っていたはずの人間らしさや、他者への思いやりの心を失ってしまったのではないでしょうか。

「人は本当は誰かの役に立ちたいと願っているのです。人は誰かの役に立つ時、一番輝くのです」

新しい21世紀を迎えた今こそ、こうした分かち合いの心をもう一度呼び覚ましていく必要があると思います。そのことを、子どもたちに教える教育こそ、本物といえるのではないでしょうか。

 それには、まず私たち女性が価値観を変え、広い視野を持って、わが子、わが家、わが国だけが良ければそれでよいという狭い考えを捨て、グローバルな意味での「正しい母性(慈悲心)」を身につけ、優しさと奉仕の心に目覚めなければなりません。女性が生き生きと輝いて生きる時、その「うしろ姿」を見て、子どもたちが夢と希望を見出すものと私は確信しております。

 これからの二十一世紀を生きる子どもたちに夢と希望を与えられるような「優しさの満ち溢れる社会づくり」をみんなで目指したいものです。


取材メモ

川村さんと初めて出会ったのは1996年の夏でした。その年の11月にバングラデシュにご一緒して以来、公私共に人生の師としておつき合いさせて頂いています。川村さんのおかげで魂の波動が少し上がったかなあ〜なんて、こころから感謝している私です。
宮崎みどり

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