独特の方法で彗星を探索 
観測中は動物も仲間・宇宙の神秘で人間も救う

2126年の8月14日に地球に衝突する可能性があると予測され、世界中の天文台が探していた彗星がある。この彗星が、万一地球に衝突すれば地球に及ぼす影響は計り知れない。スウィフト・タットル彗星と名づけられたこの彗星は、1862年に一度発見されていたがその後行方不明になっていた。もし見つけることができれば今世紀最大の発見とも、ノーベル賞ものとまで言われていた。

世界中の天文家がこのゆくえ知らずの彗星を探索する中で、一番最初に再発見し全世界から一躍注目をあびたのが長野県に住む彗星探索家の木内鶴彦さんである。

彼の彗星探索のやり方は一種独特。通常、彗星発見には、最新のコンピューターで軌道の計算をし、高倍率の望遠鏡で写真撮影して探さないと見つけるのは不可能だといわれている。

しかし木内さんは、過去のデーターをもとに電卓で軌道計算をし、望遠鏡ではなく肉眼で彗星を探し出すのだ。このため、どの天文家からも相手にされなかった。

しかし「どこに彗星が現れるかには、過剰なほどの自信がありましたよ」と笑う。

木内さんが、彗星探索を本格的に始めたのは今から18年前の1983年。今までに発見した主な彗星に、90年チェル二ス・木内・中村彗星。同土屋・木内彗星。91年メトカーフ・ブルーイントン彗星。92年問題のスウィフト・タットル彗星などがある。

「星の軌道計算というのはとても面白い。太陽系の中をどのような軌道を描いて星が飛んでいるのかが計算で分かる。頭の中で宇宙空間がシュミレーションできるんです」と話す。

彗星探索には、人里遠く離れた山奥で行う。一人寂しく蚊に食われながらの観測だが、寂しくなったら動物が相手にしてくれるのだという。「ツキノワグマが毎日来た」と何気ない顔をして話す。

「夜の森の中で熊と最初に遭遇したときは腰を抜かした。無我夢中で訳のわからない声を出して叫んでいると、くるりと背を向けてどこかへ姿を消しました」。ここでさっさと引き上げるのが普通だが、星好きの木内さんはそのまま観測を続けた。しばらくして、背中に生暖かい息を感じて振り返ると、同じ熊がいつの間にか後ろにいた。しかし運が良かったのか腹が減っていなかったのか、熊は何もせずに目の前を通り過ぎていった。

それから毎日決まった時間にその熊はやってきた。実は木内さんの観測していた場所が獣道の真中で熊の通り道だったらしい。

熊との付き合いは4年にもなり、木内さんの前に彼女を見せに現れたことある。他にも、鹿、猿、テン、ムササビなども遊びにやってくる。木内さんの孤独な星の観察は実は、すごく楽しくにぎやかな光景だだという。

「真っ暗な闇の中、集中して観測していると、自然と同化していくんです。木々の匂いや空気の存在、周りの動物の気配、そういったものを肌で感じる」と木内さん。

他にも珍客はいる。星空をいつものように観測していたとき、表情がどこか暗い人が現れて、木内さんに話しかけてきた。木内さんはその人に星を見せ、宇宙の神秘性や動物のかわいらしさなどの話をした。

一ヶ月後、その人がまた木内さんのところにやって来た。「実はあの日、自殺を考えていた」と打ち明けた。しかし「生まれて初めてゆっくりと星を見て、死ぬのが馬鹿らしくなった」と語った。

木内さんの星好きは6歳から。「星空を眺めていたとき、吸い込まれるような錯覚に陥って、まるで宇宙を漂っているような感じがして、それがたいへん心地よかった」。天文少年の始まりである。

最後に「UFOの存在は?」と質問すると「見た」と笑顔で返事が返ってきた。

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木内鶴彦・すい星探索家