日本一小さい人形芝居劇団

客席の子供たちを
抱きかかえる喜び


 愛媛県広田村。今から4年前の初夏、人口千人ほどの小さな村で人形芝居劇団『ぷか』は始まった。

劇団員は「ぷか」さんと奥さんの「さら」さんの二人だけ。この日本一小さなプロの人形芝居劇団『ぷか』は、年間百二十公演をこなし全国に広がりつづけている。

旗揚げした当時、二人は半端な貧乏ではなかったという。

「本当に何もなかった。箸に茶碗、缶詰めなどをカンパしてもらった。お米をもらったときは飛び上がって喜んだ。おかげで質素になったし、お腹がふくれたら嬉しかった」と当時をふり返って笑う。

ある中学校での話。その学校は、茶髪や剃りを入れたちょっと問題だという子供たちを一番前の列の端っこに集めて芝居を見せたという。その子供たちは「人形芝居なんて」と構え、真面目な子供たちはというと集団から後ろの方で居眠りという状態。

「ようし、そういうつもりだったらこの七十分の間にこっちを向かしてやろう」と二人は力が入る。結果は全員真剣に芝居を観ることに。

どこの学校でもそうだが、芝居が終わると必ず生徒会長からのお礼の言葉がある。ところがそれは決まって前々から準備されているものが多い。

それが分かっているので「ぷか」さんは、生徒が紙を広げて読む前に「ありがとう」といって手紙だけを受け取るのだそうだ。

そして、端にいる茶髪の少年を手招きして呼んで、「どうだった」と聞く。少年は照れたような顔をして「ちょーおもしろかった」の一言。

すると会場は拍手とともに大爆笑の渦。「生徒会長には悪かったけれど、用意されたものよりも、僕はそのほうが嬉しい」これがぷかさん流のいつものやり方。

「地球というのは宇宙に『ぷか』と浮いている。みんなもその中で生活している。『ぷか』の芝居を観たみんなの心がぷかぷかと浮いて、すごく楽になって楽しくなれば」というのが人形芝居『ぷか』の名前の由来。

人形芝居をしていて、ときどき奇妙な体験をするという。「不思議な感覚で、客席にいる子供たちとの境目がなくなるというか、一体感というか、子供たちに手を差しのべて抱きかかえているような瞬間がある。それがすごく楽しい」

四年前の六月十一日。親子劇場で公演をして帰ってきてひと息ついたとき、見渡すかぎりの田んぼ中にホタルが飛びかっていた。

光の中に僕たち二人だけがいて埋もれていく感じ。旗揚げした初日の出来事だった。


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ぷかさん・さらさん