手の中の連鶴が世界へ飛ぶ

人から人へ福を運ぶ


一枚の和紙を切り離さないで何羽もつながった『連鶴』を折る。二羽つながったものから九十七羽つながったものまで、折り方は全部で四十九種類。

『花見車(はなみぐるま)、夢の通ひ道(ゆめのかよいみち)、百鶴(ひやっかく)』などその全部に美しい名前がつけられており、すべてに狂歌が添えられている。

大阪に住む渡辺恵美子さん(長寿社会文化協会顧問)がこの桑名市の無形文化財、古典折り紙『千羽鶴折形』に出会ったのは今から四年前。

名古屋に住む友人が『千羽鶴折形』を紹介したテレビを見て感動し電話をかけてきたことがきっかけ。渡辺さんはさっそく桑名の公民館へ。そしてみごとに折られた『連鶴』の美しさに魅せられる。

以来三年間、月に一度、大阪と名古屋を新幹線で手習い修行。

定年後の人生の楽しみの一つとなり、鶴に引かれて通った三年後、渡辺さんは、ある福祉関係の仕事でお世話になった新聞記者に、お礼をかねて『連鶴』を送った。

記者から返事が帰ってきた。

「鶴も夢を見ながら幸せを運んでいます。あなたは鶴の使者になりなさい。そして鶴とともに飛んで行きなさい」。

思いがけないこの手紙から、渡辺さんの『連鶴』が手の平から世界へ飛ぶことになる。

『折り紙』は平安時代から伝わっている日本独自の文化で世界共通語。一般に折られるようになったのは江戸時代から、なかでも『鶴』は、福を運ぶ、長寿を授かるなど、日本人にとって大変縁起の良い鳥として古来から愛され、折り紙の代表となっている。

「『連鶴』は、高齢者の介護でコミュニケーションを取るのに大変役立ちます。お年よりは昔、学校で折り方を教えてもらっているので大変上手に折られます。何よりも嬉しいのは人に喜んでもらえること」と渡辺さん。現在、生涯学習センターや老人ホームなどで古典折り紙を広めている。

老若男女を問わず手軽で人々が喜んでくれるこの美しい『連鶴』は、渡辺さんとともに人からひとへと飛び、生前のマザーテレサへも手渡したという。

そして昨年の四月にはスウェーデンに飛んだ。ラトビアに小学校を建設しようとするチャリティに協力したもの。

「鶴を折ることを通して心の勉強ができます。人との出会いが深まってきます」。

このことが縁で、アメリカやルルド、そして各国の大使のもとへも渡辺さんの鶴は飛び国際交流にも一役買っている。

「国境や民族を越えて飛翔する鶴。世界中に幸せを運んでいってほしい」。渡辺さんの夢が鶴とともに飛んでいく。


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渡辺恵美子