春寒の漱石がいる道後の湯
雪国を愛でる雛の血は紅き
眼中に遠き日の雛飾りたる
遠くいて子恋の月日木の芽立つ
春耕の土より力もらひけり
明日といふ日にあひたくて花の種
三月の窓辺明るきレストラン

フィアインセといふ娘眩しき初桜
この国の人と生まれて桜狩
京や春賑はふ人のなかにをり
山門をくぐりてよりの花の雲
深水の美人画ひとり春愁ふ
水に咲き水に散りゆくさくらかな
ひとひらの行く先は海花筏

チューリップ寄り道好きの子に咲けり
胡蝶蘭さびしくてみなこちら向く
緑陰の風と入りたる美術館
新緑の緑に溶けて深呼吸
風吹けば風入れてゆく春ショール
空映す水面ゆりかご未草
アカシアの花の簪空に挿す
アカシアの花風に散り風に舞ふ
朴の花この世大きく開きけり

悲しみの日傘たたみて送りけり
オホーツクに一灯守りて薯の花
オホーツクの潮浴びに行く北見の子
日焼け子の校歌に親しオホーツク
雲の峰少年の日を連れてくる
梅筵母の齢を加へたる
霊園の管理事務所は大昼寝
特大の雲したがえて夏の峯
サングラスかけて世界の広がりぬ

七夕の笹にときめき飾りけり
旅人は北へと向かふ夏帽子
少女期へくるくる戻る矢車草
遠く来てキリマンジャロの大夕焼
来し方の影濃ゆければ緋のダリア

身に入むやふるさとに母一人すむ
花魁草今年も咲きし母の家
青春をいまも揺らして秋桜
ちぎり絵を遊びてゆけり秋の雲
摩周湖の風のはこびし秋思かな

明日咲く花は何色花野ゆく
野にあれば野の夢を見し吾亦紅
郷愁の口笛遙か鰯雲
のうぜんの千を灯して時惜しむ
若き日を畳みきれずに秋扇
来し方の色を尽くして野紺菊
秋風の生まれし森に抱かるる
立秋の少し冷めたる山の貌
故郷はかわらぬままに盆の月
露草の今日一日を空に溶く
暮るるまで遊び呆けて赤のまま

明るめの口紅選び菊日和
黄落の沖ゆく船を惜しみけり
秋天へつなぐ街路樹坂の町
十月は人の恋しき山ばかり
み仏の軽ろき頬づえ小六月
長安の都ねむれるけふの月
佇めば去来が庵柿実る
栗の実のことり地球の扉を叩く
短日の顔より暮るる啄木像
括られて十日の菊となりにけり
括られて時止まりたる庭紅葉

湯豆腐やいまも昔の京ことば
密集を抜けて疾風やラガーマン
函館の夜景に加ふ子の冬灯
煌々と終着駅の暮早し
病室の父と向かいて蜜柑むく
パソコンに迷ひ込みたる夜寒かな
秒針の駆け抜けていく十二月
逢いたくて人に逢ふ月十二月
雪降ればまた雪もよし童歌
息吸へばふるさと凛と凍てつけり
万華鏡覗くギャラリー冬晴るる
悲しみを消すまで降らす雪女

寒紅をひきて女は美しき
白鳥は夢の続きに顔埋め
この涙明日へと繋ぐ冬の旅
身の内に力蓄ふ冬木の芽
父母と数えて食べし福の豆
待春の生命確かに木々立てり
思ひだし思ひだしては牡丹雪
人恋のいちばん小さき帰り花
パソコンを開き極月すりへらす
短日やすとんと落ちる夜の帳
置き去りの恋ひとつあり冬の椅子
おでん鍋幸せの箸つつきおり
書きかけの日記を閉じて除夜の鐘
あきこの俳句
ふりむけば いつも俳句が身近にあるようになりました。
俳句をはじめて、日々が 心ゆたかに過ごせているように思えます
俳句に感謝をしつつ、、これからも永く続けられたらと。
NO:1
1998年4月より