あたためし思ひ一つや初詣 結ばれし万のみくじや初御空 待春の光こぼして菜を洗ふ 父に汲む厨の水の温みけり なむなむと幼合掌冬座敷 今日生きて哀しみふやす冬さうび みどりごに日差しほんのり春障子 少年の追い越してゆく春の坂 かんばせに春の愁ひや技芸天 ほろほろと遠き日こぼれ雛あられ 初蝶は光のなかに生まれけり 現し世の塵を払ひて雛納め 満目の星あふれきし春の波 天心に春満月のしたたれり とびこへてまたとびこへて春の泥 折り上げて夢分かちあふ雛かな 花ちるや手をさしのべてマリア像 けふよりは光に紛れ夏の蝶 紅梅の触れたる空の青さかな ふるさとの山河遍し雲の峰 一日は水輪にのせし水馬 白日傘いつも小さき影連れて ほうたるの闇より生まれ闇に死す 牡丹のいのち崩れし真白かな 碑の肩あたたかき緑雨かな あをあをと雨の匂ひの夏木立 夕さればふるさといつも蛍とぶ 一日また心に栞り大夕焼 銀漢を容れて山の湯あふれけり いっせいに竿灯の夜たち上がる 夢の世に生まれあはせて盆踊 よみがへる神話あまたや星月夜 秋の蝶残る日数をこぼしけり つゆ草の瑠璃一滴をこぼしけり 講堂の硝子百枚秋光る キャンバスの光となりて銀杏散る 今にして父の背大き寒夕焼 戦なき世を生き継ぎて秋刀魚焼く 母の手をさするやすらぎ小春かな いとほしむ母の命や葛湯吹く ふるさとの駅の暮色や雪しんしん 耳順てふ日月早し冬薔薇 |