“COPD”って何?


当院は呼吸器疾患を大きな専門の一つにしていますが、受診する患者さんの中で、喘息の方とともに多いのが“COPD”の患者さんです。外来では主として呼吸器専門医が対応しておりますが、まだ、この病気が広く知られておらず、もっと早く受診されればこんなに悪くならなかったのでは、と考えさせられる事例も少なくありません。

そこで、この“COPD”という病気について、少しでも多くの方々に知ってもらえればと思い、簡単な解説を書いてみました。ご参考にしていただければ幸いです。


1)COPDは略語のようですが・・・

COPDは、「慢性閉塞性肺疾患」の英語の頭文字から取った略語です。以前は「肺気腫」および「慢性気管支炎」とも呼称されていた疾患で、それらの名称の方が判りやすく感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、近年、これらの病態を一つの疾患概念に統一する考えが提案され、ひとつの疾患名として、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病名があらためて提唱されました。

さらに、慢性閉塞性肺疾患という長い本名を省略して、単に“COPD”と呼称することが推奨されています。それはこの病気が世界的にも増加しており、もっと病気の名前自体を憶えやすく、ポピュラーなものにして、この病気の存在を多くの方々に知ってもらいたいからです。


2)COPDはタバコ病とも言われます

この病気の原因は90%以上がタバコで、“タバコ病”とも言われます。患者さんご本人が過去も含めて喫煙していることが圧倒的に多いのですが、喫煙者の妻や職場などで受動喫煙を続けてしまい、このCOPDに罹ってしまった患者さんも時におられます。また、村部では昔の囲炉裏やかまどなどの煙も原因となることがあります。

タバコの煙は微細なので、肺の奥の奥まで入り、肺全体をくまなく破壊します。タバコの肺胞・細気管支破壊が厄介なのは、急激には出現せず、わずかずつ分からないように進行する点です。そして、タバコは止めたいと思っても、喫煙者はどなたもニコチン依存症になっていて、簡単には禁煙できないのも困った点です。

タバコは種々の病気を引き起こし、人の寿命を縮めます。日本人の場合、タバコ1本で8~12分寿命が縮みます。その原因となる最大の病気は肺癌をはじめとした悪性腫瘍ですが、その次に多いのが呼吸器系ではCOPDで、重症化すると呼吸不全をきたし生命を脅かします。当院では胸部CT検査にて、この壊された肺を視覚的に分かる画像としてお見せしています。ご自分の広範に壊れた肺をみて愕然として、禁煙を決心される患者さんもおられます。

タバコの健康被害については、この当院のホームページの中の「禁煙のすすめ」というコラムを参照してください。


3)COPDの症状は主として息切れ、咳、痰です。

タバコを吸っている方は、軽い咳と痰をしていることが多いようです。その咳と痰は気管支、細気管支の炎症の結果です。咳も痰も認めない方もおられますが、そのような人でも一部の方では気管支の炎症と破壊が、わずかずつ進行しています。このような肺と細気管支の障害は、タバコへの反応性の高い人では進行が早くなります。

COPDの病態は、主として肺胞が壊れる肺気腫型と、細気管支が傷む細気管支炎型に分けられます。肺が傷んでも人間は予備力を持っていますから、それ以上の症状は初期には出ません。

しかし中等度に壊れてくると、次第に息切れが加わってきます。はじめは階段や坂道で感ずるだけですが、そのうち平地の歩行でも呼吸が苦しくなってきます。さらに進行すると低酸素血症が強くなり、酸素吸入も必要となってしまいます。しかし、この息切れが出現し始めるのが、一般には50歳ごろなので、年のせいと考えてしまう方が多いようです。


4)診断と肺年齢について

COPDを診断するには、肺機能検査が必要です。最大努力で1秒間にどの位の空気を肺から呼出できるか(1秒量)を測定し、それを肺活量で割って1秒率という指標を計算します。70%以下を閉塞性障害と判定し、COPDを疑います。

最近は1秒量と身長から「肺年齢」というものを計算し、患者さんに、肺障害の理解を得てもらいやすいようにする工夫も行われています。45歳の方が、「肺年齢は65歳ですね」と言われると、単に測定値の数字を告げられるより、障害の程度が分かりやすく、インパクトがあるからです。肺機能検査は、最近は多くの診療所で測定できるようになっています。タバコを吸う方や、咳や痰、息切れのある方は積極的に申し出て、肺機能検査をしてもらってください。

通常、診断のためには、鑑別を含めて胸部レントゲン写真も撮ります。施設によっては、肺気量分画や肺拡散能などの呼吸機能の精密検査も行います。上述したように胸部CT検査も行い、壊れた肺の画像を可視化して供覧するところもあります。


5)COPDは治療薬で改善できる

昔は、COPDは治療が困難な病気の一つでしたが、最近は薬などが進歩し、一定程度は治療できる病気となりました。しかし、治療の前提は、COPDの原因である喫煙の中止です。原因を絶たずに治療を行うことは、十分な治療効果が発揮できないことになり、患者さんにとって大変不利益です。まず、禁煙の実行が第一です。

最近は保険診療で、効果的な禁煙補助薬が使えますので、禁煙もしやすくなりました。禁煙がなかなかできない方は、最寄りの病院や診療所を受診してください。(禁煙治療を保険でできる認定医療機関は、禁煙学会や県医師会のHPなどで確認できます/当院でも保険で治療する禁煙外来を行っています)

COPDの治療は気管支拡張薬が基本です。長時間作用型の抗コリン薬とβ刺激薬が主として吸入で使用されます。β刺激薬では貼付剤も、症例によっては利用されています。最近の気管支拡張薬は、以前の内服薬などと比べると、副作用が少なく効果が高くなっています。重症度が高い症例では、β刺激薬とステロイドの合剤の吸入薬も有用です。

最近の内外の報告をみますと、これらの薬剤が呼吸機能の改善だけでなく、COPDの病気自体の経年的な進行を、ある程度抑制するというデータも示されております。また、世界的に進むCOPDの患者さんの増加に伴い、新しい気管支拡張薬や抗炎症薬などの開発も精力的に進められています。


6)リハビリテーションや酸素吸入も重要な治療の手だて

最初にお話しましたように、COPDは肺がタバコで壊されてしまった病気ですから、薬での改善には限度があります。COPDの治療には患者さんの症状軽減や合併症の回避のために、中等症くらいから、呼吸の仕方や呼吸筋の訓練などの呼吸リハビリテーションが導入されますが、その有効性はエビデンスとして確立しています。COPDは全身疾患とも考えられており、呼吸筋以外の全身のリハビリ訓練も重要で、また栄養療法も注目されています。

それでも低酸素が改善しない患者さんには、在宅酸素療法が導入されます。酸素療法は自覚症状の軽減はもちろんですが、心臓や感染症などの合併症も減らし、患者さんのリスクを減らしてくれます。酸素の供給源としては液体酸素と酸素濃縮機があり、それぞれの特性を踏まえて利用します。


7)肺年齢のチェックを受けましょう!

日本には人口の8.6%にCOPDの患者さんが存在するという確かな報告があり、そうしますと500万人以上が罹患していることになります。しかし、実際にCOPDとして治療されているのは、少し以前のデータですが20数万人と言われており、かなりの患者さんが埋もれていると考えられています。

タバコを吸ったことのある方や家族に喫煙者がいたことのある方で、咳や痰が出たり、少しでも息切れを感じる方はCOPDの可能性があります。年のせいと片付けてしまわないで、一度、肺機能やCTによる呼吸器の精査をお受けください。

息切れなどのない、健康感のある楽しい老後のためにも、ご自身の肺年齢のチェックをお勧めします。上述しましたように測定可能な医療機関は増えていますが、事前のお問い合わせをお勧めします。


平成24年8月6日 医師 富岡 眞一


*イラスト:“肺年齢ドットネット”“いい禁煙”