「イムジン河」
最近、買ったCDに「イムジン河」がある。ある程度の年齢の方々なら、この「いわくつき」曲を知っているかもしれない。「帰って来たヨッパライ」でも有名な加藤和彦、北山修、端田宜彦で結成されたフォーク・クルセイダーズの第二弾シングルとして1968(昭和43)年に発売される予定だった。ところが、出荷直後に発売中止となり、幻の曲となっていた。この曲は、もともとは北朝鮮で作られたもので、南北に分断された朝鮮半島を歌ったものだ。南北の軍事境界線に沿って流れる「臨津江(イムジンガン)」を越える鳥に託して、南から北に移ってきた人が南の国を思う、といった内容だ。ところが、この詞が南側への偏向があるとの朝鮮総連からの抗議によって発売中止になったそうだ。ところが、この曲が禁止になった理由にはいくつかあり、訳詞の内容がもと詞と違いすぎるとか、もとの歌の作詞者、作曲者のクレジットが明記されていなかったとか、韓国政府から自国内での反戦運動を助長するとの抗議が来たとか、様々に言われているらしい。なんにせよ、「イムジン河」は既に店頭に並べられた数万枚を除いて、陽の目を見ることがなかった。
ところが、1998年には桑田佳祐がAct Against AIDSコンサートで、2001年には紅白歌合戦でキム・ヨンジャがこの曲を歌った。また、ここ数年の南北間の緊張関係の緩和や日韓共同のワールドカップ開催などの流れを受けて、2002年3月21日にリマスタリングされCDとして発売されることになった。この曲については以前本で読んだことがあり、一度聞いてみたいと思っていたので、手にとってみたというものだ。ところが、このCDを製作したのが大手のメーカーではないためか、市内のあちらこちらレコードショップをめぐったものの、売り切れであったり、もともと扱っていないなどして、数件の店を巡ってようやく手にすることができた。
イムジン河 朴世永作詞、高宗漢作曲、日本語詞松山猛
イムジン河 水清く とうとうと流れる
水鳥自由に むらがり飛び交うよ
わが祖国 南の地 おもいははるか
イムジン河 水清く、とうとうと流る
北の大地から 南の空へ
飛びゆく鳥よ 自由の使者よ
だれが祖国を 二つに分けてしまったの
誰が祖国をわけてしまったの
イムジン河 空遠く 虹よかかっておくれ
ふるさとをいつまでも 忘れはしない
イムジン河 水清く、とうとうと流る
こういった詞が生まれる背景には、朝鮮半島がふたつに分かれていた、ということがある。朝鮮戦争によって、ひとつの民族が二つに分断されたことによって生まれた悲劇。皮肉なことに、これからもいくつもの「イムジン河」が生まれる環境はいくらでもある。パレスチナを巡る紛争、ニューヨークのテロ事件をきっかけに始まったアフガニスタン紛争…。無責任な言い方かもしれないが、曲の当事者でもなければ、この曲が発表された時代やその意味を共有しているわけでもない。詞がもつ本当の意味を理解していないのかもしれない。それでもなお、「イムジン河」の詞が持つ意味と真摯に向き合うことが必要なんだろう。CDジャケットには、白地に世界各国の国旗が並べられている。その白地には小文字で「peace」という文字が浮かんでいる。
ちなみに、今回発売されCDのカップリングには「悲しくてやりきれない」が収録されている。「イムジン河」が発売中止になった際に、フォーククセイダーズの第二弾シングルとして発売された。こちらも、いい曲なので一度聞いてみて欲しい。
《参考資料》
森達也『放送禁止歌』(解放出版社、2000)
アサヒコムホームページ http://www.asahi.com/
ZAKZAKホームページ http://www.zakzak.co.jp/