プロローグ



 かつて人々は、小競り合いはあったものの平穏に暮らしていた。
 だが、バラモスという魔王が現れ世界は一変する。
 バラモスは世界の支配を望み、多くの魔物を使い各地を襲い始めた。
 そんな中、アリアハンに勇名を馳せたオルテガという勇者がいた。
 彼は、初子を授かった直後に国王から勅命を受けて、妻と生まれたばかりの子供を残し魔王バラモスの討伐へと向かった。
 数年が経ち、アリアハンのオルテガの家へ国王からの使いが来る。
 勇者オルテガが魔物との戦いの途中、火山に落ちて命を落としたという。
 落胆する人々、そして悲しむ妻と何も知らない幼い息子。
 勇者亡き後、バラモスの脅威に怯える人々の生活が始まった。
 そして月日が流れ………。

 王城の前に二人の姿があった。
 一人は男性でまだあどけなさが抜け切れていない少年だった。鎧を着こみ、腰に剣を携えている。
 また肩にはバックが下げられている。旅の道具が入っているのだろう。腰のベルトにも小袋が下げられている。
 そしてもう一人は女性で、たぶんこの少年の母親なのだろう。
 しかし、見た目は子供に見えないくらい若く美しい。姉弟と言われても納得する人は多いだろう。
 そんな二人が王城の前に立っているのだった。
「ここからまっすぐ行くとアリアハンのお城があります。
 国王様にちゃんと挨拶するのですよ。さあ、いってらっしゃい」
 母親の言葉に頷く少年。意を決したように、腰の剣を一握りする。
「ああ、行って来るよ」
 少年はそう言って母親に手を振ると、城の入り口へと向かった。

 門の左右に、二人の兵士が立っていた。たぶん門を守る兵士なのだろう。
 その兵士が少年に気が付くと、門の前に移動し何者であるかと誰何した。
「私の名はオルテガの息子、カイト。国王様にお目通りを願いたい」
「あなたがオルテガ様の息子ですか。確かによく似ておられる。さあ、王様がお待ちです。お通りください」
 兵士はそう言うと元の位置に戻って中に指示を出す。
 すると、門が開いて中に入れるようになった。
「さあどうぞ、お通りください」
 兵士に言われてカイトは頷くと中へと入っていった。

 王の間に通されたカイトは辺りを見回す。
 赤い絨毯が敷き詰められた王の間の奥は段差になってお入り、その段差の上にある玉座に国王が鎮座していた。
 段差の前には近衛兵が王を守るように立っていた。そして王の右隣には相承が立っているのだった。
 カイトは緊張したように唾を飲み込むと、深く息を吐いてから王の前へと進んだ。
「よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子、カイトよ!」
 国王はカイトを見るとそう口を開いた。
「ご無沙汰しております、国王陛下」
 カイトは恭しく頭を下げた。
「うむ。そなたと最後に会ったのは、オルテガが亡くなった時だからな」
 王はそう言うとたくましく育ったカイトを見つめた。
「うむ。こうして見るとオルテガによう似ておるわ」
「陛下……」
「わかっておる。カイトよ、すでに母から聞いておろう。
 そなたの父、オルテガは戦いの末、火山に落ちて亡くなってしまった」
「………」
「そなたがその父の跡を継ぎ、旅に出たいという願いはしかと聞き届けた」
「はい」
「そなたなら、立派に父の跡を継ぎ世界に平和を導いてくれるであろう」
 国王はそう言うと玉座から立ち上がり、カイトの方へと近寄って行った。
 そして右手をカイトの肩に置き、真っ直ぐに目を見つめて言葉を続けた。
「敵は魔王バラモス! 世界の人々はいまだバラモスの名を知らぬ。
 そなたの父オルテガは、だからこそ人々が恐怖に落ちないうちにバラモスを倒そうとしたのじゃ。
 世界に平和を。そなたとそなたの母の未来に平和をもたらすために」
「………」
「このままではやがて、世界はバラモスの手に落ちてしまう。
 それだけはなんとしても食い止めなければならない!
 カイトよ、バラモスを必ず倒してくれ。
 わしはこの国を守らなければならないため、ここを離れるわけにはいかんのでな」
「わかっております。陛下はこの戦いの後、人々を導かなければなりません。その役目は私がお引き受けいたします」
「うむ。その言葉、実に頼もしい」
「必ず、バラモスを倒して見せましょう」
 カイトはそう言うと、王の間を出ようとした。
「待ちなされ」
 それをそばにいた大臣が引き止めた。
「そなたの父、オルテガ殿は一人で旅立ちあのようなことになってしまった。
 そなたも一人では同じ運命を辿るかも知れぬ。町の酒場で仲間を探してみたらどうだろうか。
 きっとそなたの役に立つ者がいるであろう」
「うむ。それがいい」
 国王は大臣の言葉に頷いた。
「では、そなたと仲間になる者のためにこれを授けよう」
 国王はそう言うと、大臣に合図を送る。大臣は頷くとお金の入った袋と武器や防具をカイトに渡した。
「少ないが旅の足しにでもして欲しい。それとこれで仲間の装備を整えると良かろう」
「お心遣い感謝いたします」
「うむ。では、頼んだぞ」
「はい」
 カイトは大臣から受け取ると、王の間から出て行った。



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