第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(1)



 町に出た俺は大きく息を吐いた。さすがに国王にあったので、緊張して背中が汗がびっしょりになった。
 大きく伸びして緊張をほぐすと、ルイーダの酒場に向かって歩き出した。
 ルイーダの酒場は、店主のルイーダという女性が経営している出会いと別れの酒場。
 ここには冒険者として登録している者たちが集まっているという。
 仲間が集い魔物を退治の依頼を受けて退治しに行くのがメインだとか。
 それならバラモスを退治をしに行ってくれる人もいるだろう。
 だが、なんて言って仲間になってもらえば……。
 何しろ生きて帰れる保証のない旅だ。そんな旅について来る奴はいるのだろうか?
 とはいえ、一人で行けば親父と同じ道をたどってしまう。なんとか仲間を探さなくては。
 酒場に着いて中を覗いてみると、テーブルにまばらに座っている数人の冒険者がいるだけだった。
 しかし昼間から酒を飲んでいるとは、良い身分だな。あまり仲間にしたく無い。
 とりあえず、カウンターでルイーダに声を掛けてみるか。
「おう、ここは坊やが来るような場所じゃないぜ」
 酒息交じりの顔を赤らめたひげ面のオヤジが、横を通る俺にそう声をかけてくる。
 だが俺は酔っ払いにかまっているほど暇ではない。
 酔っ払いの声を無視して、カウンターに向かって歩いていく。
「おい、人が話してるんだ。無視するんじゃねぇ」
 男はそう言うと俺の肩に手を置いた。
 ズデン!
 次の瞬間、男は宙を舞い背中を床に打ち付けていた。
 まったく受身を取れなかった男は、息ができずに悶絶している。
「背後から気安く触らないでもらおう」
 俺は男を見下ろしながらそう言った。
「て、てめぇ」
 倒れた男の仲間なのであろう。俺より背の高い男が、仲間の敵とばかりに掴みかかってきた。
「やめておけ、怪我をするだけだ」
 俺は冷ややかな眼で相手を見つめながらそう言った。
 男は一瞬ひるんだが、すぐさま殴りかかってきた。
 だが、それよりも早く俺の拳が男の腹に食い込んでいた。
「ぐふっ」
 男はそのまま倒れこんでいく。
「気をつけるんだな。相手の強さを見極めることができなければ、いつ死ぬかわからない」
 俺は起き上がってきた男たちにそう告げた。
 だが、人の忠告を聞かずに男たちは、二人がかりならと襲ってきた。
 バキッ! ドカッ! グキッ!
 俺は容赦なく2人を叩きのめす。二人が相手だろうと遅れをとることは無い。
 しかも相手は酔っ払い……俺の相手になるはずもない。
 俺は最初に声を掛けた男の攻撃を簡単にかわすと、カウンターで顔面に拳を叩き込んだ。
 男は顔をのけ反らせ、そのまま後ろに倒れていく。
 もう一人の男は、俺に隙ができたと後ろから攻撃を仕掛けてくる。
 だがそれは俺にとっては予想範囲内の行動であり、振り向きざまに後ろ回し蹴りをかました。
 さすがにこの攻撃は予想をしていなかったようで、男は避ける間もなく俺の踵が顔にヒットした。
 蹴られた男はそのまま横に倒れていく。
「まだ、やるなら相手になるが」
 俺はそう言って次の攻撃に備えながら男たちを見下ろす。
 顔を腫らした男たちは、顔を見合わせ首を振ると逃げるように酒場を出て行った。
 男たちが出て行くと、酒場は歓声に包まれた。
「兄ちゃん、すげぁな。あの二人はここらじゃそれなりに名の知れたならず者よ」
「そうそう、誰にでもケンカを吹っかけて迷惑してたんだ」
「ああ、俺は見ててスッキリしたぜ」
「どうだい、兄ちゃん。一緒に飲まねぇか」
 歓声をあげた男たちがそう誘ってくる。
「いや、今は仲間を捜してるから……」
 俺はそう言って断る。誘ってくれるのは嬉しいが、今はそれどころではない。
「兄ちゃん、仲間なんか捜してどうしようっていうんだ?」
「冒険に出るんだ」
「へぇ、ならいいこと教えてやるよ。仲間にするなら、戦士や僧侶、魔法使いがいいぜ。
 戦士は戦いに長けているし、僧侶は傷を癒してくれる。魔法使いは魔法で援護してくれるから便利だぜ」
「いや、武道家もいいぞ。素早い動きで敵を翻弄する。武器もいらないから節約できるぞ」
「盗賊の技術も捨てがたいな。
 遺跡などの罠を解除してくれたり、隠してある宝箱を見つけるのも得意だぜ」
「商人ならアイテムの鑑定もしてくれるぞ」
「仲間にするなら四人くらいが丁度いいぞ」
 男たちがジョッキを片手に口々に教えてくれる。
「とにかく、あそこの女主人に話してみな。良い仲間を紹介してくれるぜ」
 そう言って男が指差した方を見ると、二十代前半に見える美しい女性が立っていた。
「あの人はルイーダと言ってこの店の主人で、人を見る眼は確かだぜ」
 ああ、それは知っている。ついでに言うと見た目は二十代前半だが、実はもっと年を取っているのは内緒だ。
 そんなことはさすがに言えないので、男に礼を言ってルイーダのところへ向かうことにした。

「相変わらずね、カイトちゃん」
 近づく俺にルイーダはそう声をかけてきた。
「ちゃん付けはやめてくれ。もう、16だぜ」
「私にとっては、カイトちゃんはいつまでもカイトちゃんよ」
 そう言って、優しく微笑むルイーダは、俺の母さんの知り合いだ。
 古くからの友人で父さんとも知り合いだったという。母さんに父さんを紹介したのもこの人だ。
 母さんよりも2つ年上で、母さんにとっては姉のような存在らしい。
 それに俺の面倒も見てくれたことがある。
 父さんが死んで魔物たちが増えたとき同い年の子達が、おまえの親父が死んだからといじめられたことがあった。
 そのときそいつらをぼこぼこにしたのがきっかけで、町の不良どもとつるんでいた。
 そんな俺を更生させたのがルイーダだった。ルイーダのおかげで俺や仲間は真面目になった。
 そんなルイーダも3年前に夫を亡くしてからは、一人でこの酒場を経営している。
「16になったってことは、旅に出るのね」
「ああ」
「そう……あのやんちゃ坊主さんが、オルテガさんの跡を継ぐのね」
 俺はその言葉にしっかりと頷いた。
「それは寂しくなるわね」
 そう言って寂しげに微笑む。
「ケイトも寂しくなるわ」
「大丈夫さ。爺さんもいるし、ルイーダさんもいるじゃないか」
「そうね。でも、やっぱり身内をまた戦いに送り出すのは辛くて寂しいものよ」
 そう言われて俺は黙ってしまう。確かに父さんがいなくなり、俺までいなくなったら悲しむだろう。
「必ず帰ってくるから大丈夫さ。そのために、ここに仲間を捜しに来たんだから」
「そうね……でも、今は無理ね。冒険者が集まるのは夕方が多いのよ」
 なるほど、確かに今いる連中は冒険に向かないやつばかりだ。
「わかった。出直してくる」
「そう? ここで待っててもいいのよ」
「今のうちに情報収集をしておきたいんだ」
「わかったわ。じゃ、夕方にね」
 俺は頷くと酒場を後にした。酒場を出ると、アジム達が立っていた。
「よっ!」
 俺は軽く挨拶をした。
「行くのか?」
「ああ」
「俺たちも一緒に行ってやりたいが、足手まといになりかねない。
 だから、お前が安心して旅立てるように町のことは俺たちに任せろ」
「アジム……」
「カイトの爺さんやおばさんも私たちが守ってあげるわ」
 マヤがアジムのあとを引き継ぐように言う。
 2人は俺が出会ったときから恋人同士で、俺とも仲がいい。
 アジムは不良グループのリーダーをしていた。今は、町の自警団のリーダーをしている。
「信頼しているぞ」
 俺はそう言ってアジムの胸を叩く。
「任せておけ」
 今度はアジムが俺の胸を叩く。
「そろそろ、俺たちは警備に戻る。がんばれよ」
 アジム達はそう言うと居なくなった。
 アジム達の信頼を裏切らないためにもバラモスを絶対に倒さないとな。



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