第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(2)
街を歩いて情報収集をしてみたが、たいした情報は得られなかった。
何故か井戸にはメダルおじさんと言う小さいメダルを集めている人がいた。
小さなメダルを集めると枚数に応じて褒美をくれるという。
せっかくだから集めてみるとするか。旅に役立つものが手に入るかもしれないからな。
そんなことを思いながら、再びルイーダの店に行くと昼間とは違い活気にあふれていた。
誰か信頼できそうな、仲間になってくれる人がいると良いんだが。
「よう、兄ちゃん。仲間を捜しているのか? なら、俺なんかどうだ?」
鎧を着た、いかついオヤジが声をかけてきた。どうやら、戦士のようだ。
「俺はそんじょそこらのヤツとは比べ物にならないほど強いぞ」
オヤジはそう言うと力コブを作ってみせる。こういうやつはたいてい見掛け倒しが多い。
俺は低く身構えオヤジの実力を試すことにした。実力があるなら俺の殺気に気が付くはずだ。
しかしオヤジは俺が体制を整えているのに気づかない。いかに自分が強いかを話すのに夢中のようだ。
俺はそれにかまわず、鋭いパンチをオヤジに繰り出した。
次の瞬間、俺の拳はオヤジの顎にヒットし吹き飛んでいく。
オヤジはたぶん、何をされたか解っていないだろう。
この手のタイプは所詮、口先だけのたいしたヤツではない。
こういうやつを連れて行くなら、アジム達を連れて行ったほうがましだ。
俺は伸びているオヤジを一瞥すると、あたりを見回した。
店にいた連中は俺と顔を合わせると、みんな顔をそらしてしまう。
どうやらここには、俺の仲間になれそうなやつはいないようだ。
チラッとカウンターを見ると、ルイーダが呆れた顔で俺を見ていた。
バツが悪くなり、店を出ることにする。
「仲間を捜してるなら、あたしなんかどうだ?」
店を出るとすぐに声をかけられた。振り向くと女戦士が立っていた。
いつの間に立っていたのか、気配すら感じさせなかった。
「どうだい? さっきのオヤジよりは役に立つよ」
女戦士はそう言って、俺の肩に触れる。
触れた瞬間、俺は女戦士の腕を取り投げ飛ばした。
「はっ!」
女戦士は、きれいな弧を描いて着地する。
「ずいぶんな挨拶だね。でも、これで納得してくれたかな」
「ああ」
俺はそう言って手を差し伸べた。
「あたしの名はレイラ。まだ駆け出しの戦士だけどよろしく」
「俺はカイト。よろしく」
彼女の手を握った瞬間、彼女が普通の女の子と違うことを感じた。
見た目は俺とたいして変わらないだろう。体格も華奢な感じがする。
だが、それは間違いであったと言わざるを得ない。
彼女の体は均整が取れた引き締まった筋肉をしていた。
よほどの訓練をしたのであろう。
実戦経験は乏しいものの、俺やアジムに引けを取らない実力を持っているはずだ。
「俺の旅の目的は知っているのか?」
俺は彼女にそう訊ねた。
俺がこれから赴く場所はバラモスのいる居城だ。五体満足で帰ってこれる保障は無い。
「もちろん、知っているさ」
レイラはそう言って片目を瞑る。
「あんたがオルテガの息子で魔王の討伐に向かう。その話はアリアハンで知らないものはいない。
だからあたしは、この町に来たんだ」
レイラはそう言って空を見上げる。
「あたしの父さんは傭兵だったんだ。ある戦いで亡くなった。父さんの夢はそのために叶わなかった。
だからあたしがその夢を継いであげたい。そのためには、強くなければならないんだ」
そう言って今度は俺の顔をじっと見る。その眼は女の子のそれではなく、戦士としての眼。
「だから、バラモス討伐の旅に同行することに決めたんだ」
彼女の言葉からその思いが伝わってくる。その思いは俺の思いと同じ。
「わかった。よろしく頼む」
俺はそう言って右手を差し出した。レイラは俺の差し出した右手を握って握手する。
「こちらこそ、よろしく頼む」
こうして俺は、一人目の仲間を見つけた。
「カイト、他に仲間になりそうな人物のあてはあるのか?」
「いや、ない」
俺は首を振って正直に答えた。
「なら、あたしの知り合いを誘ってもいいか」
彼女はそう言って知り合いの話をする。
彼女の知り合いの名はユズハ。この町の教会で神官をしているという。
神官をしているといっても、最近なったばかりだそうだ。
それでも戦士としての訓練も受けていているので、きっと役に立つはずだという。
「回復してくれる人がいるのはこれからの旅には助かる。会いに行ってみるか」
「会って損はないと思うぜ」
レイラはそう言うと協会に向かって歩き出した。
会うのは良いが仲間になってくれるかどうか。修行中のみだから教会が許可しないかもしれない。
その時は教会側を説得するしかない。が、説得できるだろうか。
教会に着き扉を開けて中に入ると、教壇に立って説教をしている若い神官がいた。
俺やレイラより一つ下くらいだろうか。
端整な顔立ちの人を惹きつける美しさを持つ女の子が、説教しているのだ。
みんな真面目に聞いているように見えるが、そのほとんどが男で真面目に聞いているというよりは、彼女見たさに来ているといった感じだ。
やがて説教は終わり、男たちは帰っていく。
「あいかわらずのようだね」
レイラはそう言って彼女に近づく。
「レイラ、来ていたのですか」
「ああ、頼みたいことがあってね」
レイラはそう言うと、俺の方に視線を向ける。
「あっ……」
彼女は俺を見ると一瞬体を硬直させた。そして……。
「お待ちしておりました」
そう言って深々と頭を下げた。俺とレイラは思わず顔を見合わせた。
「……というわけで、昨日の祈りの時に我が神から啓示を頂いたのです」
教会の一室。
彼女はそこで俺を待っていた理由を説明した。
神の啓示。
修行を積み、徳を高めたものは神から啓示を受け神官となる。
神官となったものはさらに徳を積み、啓示を受けることによって司祭になるという。
ただ、最高司祭であっても、なかなか神の啓示を受けることは無いらしい。
しかも、神官になりたての彼女が神からの啓示を受けるということは、よほどのことなのであろう。
「啓示の内容は、
『明日、勇者となるべき男が戦士を伴いやってくる。
その者を助け共に暗き闇を払い、光を再び取り戻すこと』」
彼女はそう言って俺の眼を見つめる。
「司祭様には、このことをすでに話してあります。
司祭様からは、この試練を成し遂げるようにというお言葉を頂きました」
話すだけ話すと無言のまま俺を見つめる。どうやら俺の返答を待っているらしい。
「良かったじゃないか。仲間を捜す手間が省けた」
レイラはそう言って喜ぶ。
確かに手間は省けた。神から啓示を受けるということは、神官としての才能があるのだろう。
だが、戦いにおいて自分の身を守れなければ、生き残ることはできない。
「大丈夫です。戦闘の訓練も受けていますので、自分の身は自分で守れます」
俺の意を察したのか、彼女はそう言った。
「……よろしく頼む」
少し考えてから、俺はそう言って手を差し伸べた。
これからの戦いはお互いを信じなければ生き残れない。疑ってばかりでは、信頼関係を築くこともできない。
「俺の名はカイト。魔王バラモスを倒すために旅立つつもりだ」
「私はユズハ。神官戦士としてあなたをサポートします」
ユズハはそう言って、俺の手を握り締めた。
「これで、三人になったな」
レイラは俺たちの手に自分の手を重ねそう言った。
「三人になったけど、どうする? このまま旅に出るか、もっと仲間を増やすか。
アタシとしてはもう一人くらいいた方が良いと思うんだがどうする?」
教会を出たところでレイラがそう聞いてきた。
確か四人くらいが丁度良いと言っていたな。もっともどうして四人なのかは解らないが。
「魔法使いがいると旅が有利になります。攻撃魔法は強力ですし、補助魔法も便利ですから」
「魔法使いに知り合いはいるのか?」
俺の問いに二人は首を振る。
ルイーダの酒場にも魔法使いの姿は見なかった。
魔法使いは旅に出るものが少ない。そのため、どのパーティも魔法使いを重宝する。
「魔法使い意外だと武闘家か商人、盗賊に遊び人になるが、あたしとしては遊び人は避けたいところだね」
「今は三人でもよろしいのでは? 旅の途中で仲間にできる可能性もありますし」
レイラとユズハがそれぞれ意見を言う。確かにユズハの言うことにも一理ある。
「カイト、なんで私を誘わないのよ」
突然、そんな声を掛けられる。と同時に頭を思いっきり叩かれた。
「ミリア!」
殴られた頭をさすりながら、振り向くとそこにはミリアが腕を組んで立っていた。
「な、なんでこんなところに居るんだ?」
「決まっているでしょ。私もバラモスを倒しに行くのよ」
「やっぱり……」
「やっぱりって、解っているなら呼びに来なさいよっ」
また、ゴチンと頭を叩く。
「いってぇな。誘うも何も王様が許可するわけないだろ。だいたい、お姫様がバラモス退治なんて……」
「「ひ、姫ぇ?」」
俺の言葉に再び驚くレイラとユズハ。まあ、普通は驚くのも無理はない。
「姫ってアリアハン王の娘……」
「そうよ。そして、カイトのフィアンセよ」
ズデン!
ミリアが変なこと言うからこけてしまった。
「誰がフィアンセだって?」
「冗談よ冗談。女の子に囲まれて鼻の下伸ばしてるから、からかっただけよ」
「ったく……とにかく城へ帰るんだ」
「嫌よ。せっかく抜け出して、しかも旅の支度までしてきたのに」
そう言って胸を張るミリア。その態度から何を言っても無駄だということが解る。
「どうするんだ、カイト。お姫様を本当に連れて行くのか」
「説得しても無理だと思うよ」
「でも、よろしいのですか?」
ユズハが心配そうに聞いてくる。
「人の言うこと利かないおてんば姫だからな」
「誰がおてんば姫よ。ちなみにカイト、お父様に言ったらギタギタよ」
わかってます。ミリアの凄さは身にしみてよく知っています。
「そうそう、私のことは世界の美少女ミリアと呼んでね」
「誰が世界の美少女だよ。アリアハンの暴れん坊とかアリアハン一の我がまま姫と言われているくせに」
「誰が暴れん坊で我がままで性格ブスよ」
「性格ブスまで言っていないけど」
「とにかくミリアで良いわよ」
「解った、ミリア。よろしく」
「よろしくお願いします、ミリア」
「じゃ、出発よ」
ミリアが機嫌よく号令をかけた……。
「で、どこへ行くの?」
……までは良かったが、行き先知らないなら号令をかけるなよな。
「北へ行けばレーベの村があります。西にはナジミの塔があります。どうしますか、カイト?」
そうだな……まずは情報収集のためにレーベの村に行くか。
「レーベ村に行こう」
「わかった、レーベ村ね」
こうして、俺はアリアハンを出発することになった。
仲間になったのは戦士、僧侶、遊び人の三人だ。
ボカッ!
「誰が遊び人よ」
痛いなぁ、少しは手加減というものを……ってミリアには無理か。繊細とは程遠い存在だしな。
とにかくバラモス、首を洗って待っていろ。
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続く