第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(3)



 アリアハンを出てレーベ村に向かおうとした俺たちの前に、青色をした玉ねぎのような生き物が姿を現した。
「あれはスライムですね」
 ユズハが青色の生物を見て冷静に指摘する。あれがこの世界ではキング・オブ・ザコと呼ばれるスライムか……。
「どうする、カイト」
「こんなヤツに手間取っていたらバラモスは倒せない」
「ちゃっちゃとやっつけなさいよね」
 レイラに答える俺に命令を下すミリア。
 その言葉を号令に俺たちはスライムを切り捨てにかる。スライムを倒すのに時間はかからなかった。
 たかが4匹に遅れをとるはずが無い。誰一人怪我も無く、戦いを終えた。
「じゃ、行こうか」
 俺はそう言って汚れた剣を布でふき取りながら鞘にしまう。
 その俺の腕をミリアが掴んで動きを止める。
 ははあん、えらそうなことを言っていたがやっぱりお姫様。戦いで腰を抜かしたか?
「誰が腰を抜かしたって」
 ゴキッと音がしそうな勢いで俺の頭を叩くミリア。
「スライムのそばにお金が落ちてるわよ」
 ミリアがそう言って指を差す。指を差す方に目をやると、確かにお金が落ちている。
「これからお金は必要になるものだから、もらっておきなさい」
 ミリアはそう言って俺に取るように促す。自分では取る気が無いらしい。
 仕方が無く俺はお金を拾うことにした。落ちていたのは8Gで大した金額ではない。
 金を布で拭き、汚れを取ると小袋にしまった。
「ところでカイト。なんで魔物がお金を持っているのよ」
 ミリアがそんな疑問を口にする。
 確かに魔物がお金を使うわけではないし、おかしいとは思うのは解る気がする。
「魔物がお金を持っている理由は、倒した人間から奪っているからだ」
 レイラがミリアの疑問に答えた。
「アタシも詳しいことは解らないけど、魔物に襲われた人が所持金の半分を奪われたという話を聞いたことがある。
 噂でしかないが、人間を食べたり襲ったりしたときに硬貨に価値を見出したという。
 そのためお金を使った売買もされているというが、あくまで噂だから信憑性は無いな」
「光るものを溜める習性があるという話を聞いたことがあります。
 でも薬草とかを落とす場合もあるというのでこの説は噂なのでしょう」
「まあ、理由はともかく、貰えるものは貰っておけば良いってことだな。
 これからの旅でお金はいくらあっても足りないからな」
 俺はそう言って話を終わらせた。そもそも考えたって魔物ではないから解るわけがないからな。
「では、改めて出発しよう」
 俺はそう言ってレーベの村へと向かって行った。

 あれから数回ほど魔物と戦い、やっとレーベ村に到着する。
「レーベの村にようこそ」
 村の入り口のところで女の人に歓迎される。さて、どうしようか。
「武器屋や道具屋で必要なものを買い揃えるか?」
 レイラが訊ねてくる。
「宿屋で休んだほうがいいのではないのでしょうか?」
 ユズハが違う提案をしてくる。確かに魔物との戦いで、少し疲れている。
「早く決めなさいよね」
 ミリアは相変わらずだ。
 情報も収集をしたいが何が起こるかわからない。先に休んでおいたほうがいいのかもしれない。
「まずは宿を取ろう」
 俺たちは宿に向かって歩き出した。
「こんにちわ。旅人の宿屋へようこそ」
 宿屋に着くと、女将が歓迎してくれた。
「四人だけど部屋はあるかい?」
「はい、空いてますよ。ただ、小さな宿屋なので女性の方は相部屋になりますがよろしいですか?」
 そう言われて全員がミリアのほうを向く。
「わかってるって。一緒に旅をするんだから、わがままは言わないわよ」
 その言葉を聞いて安堵する俺たち。
「それに、私みんなで寝るのって楽しみなのよね」
「女将、いくらだ?」
「一晩、8ゴールドになりますがお泊まりになりますか?」
「頼む」
「それでは、部屋に案内しますので、ごゆっくりおやすみください」
 そう言って女将はミリア達を部屋まで案内する。俺の方は小さい男の子が案内してくれた。
「お兄ちゃん、魔物と戦っているんだよね? いっぱいいっぱい魔物を倒してね!
 あいつらがボクのパパとママを……。ぐすん」
 男の子はそう言うと涙ぐんだ。
「その子の両親はこの子を守るために魔物にやられたんです。行くあてもないので雇うことにしたのです」
 宿屋の女将はそう言って神妙な顔をする。
 女将の言葉を聞いた俺たちはなんて言っていいか解らず、ユズハは泣いている男の子を慰めようと声を掛ける。
「すみません、お客様にこんな話をして」
「いえ、気にしないでくだい」
「さ、ここがお部屋になります」
 案内された部屋の前でミリアたちと別れ、部屋の中に入る。
 荷物を置いて鎧を脱ぐと一息ついた。
 この村まで来る間の戦闘で、レイラやユズハの実力を見ることができた。
 まだまだ駆け出しといった感じがするが、それは俺も同じだ。
 旅をするうちにもっと強くなりそうな予感がする。この二人となら、問題なく旅を続けられるだろう。
 そして、ミリアだが……。
 さすがに王宮の戦士に鍛えられているだけあって、剣の腕はかなりいい。
 たしなみ程度に習っているとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
 ただ、相手が弱かったり、敵の数が少ないと戦闘に加わらないのが難点だが。
 まあ、この辺りの魔物は弱いから大丈夫だけど。
「さて、明日からどうするか。情報を収集しないとまずいよな」
 アリアハンから他の地に行く方法も見つけなくてはいけない。
 明日も大変だな。

 日が昇るとともに起き出した俺は、鎧を着ると部屋を出た。
「おはよう」
 部屋を出るとちょうど、レイラが部屋を出てきたところだった。
「他のみんなは?」
「もう、起きている」
 レイラの言葉どおり、ユズハとミリアが部屋から出てきた。
「おはようございます」
「カイトも起きたようね」
 ユズハとミリアが声をかけてくる。
「朝食を食べたら、情報収集するから」
 俺は三人にそう言って、下の酒場へと降りていく。
 宿屋はたいてい、1階が酒場になっていることが多く食事が取れるようになっている。
 特にこういう小さな村は、酒場兼宿屋というのは多い。
 それはさておき、俺たちは食事を取るとバラバラになって情報収集することにした。
 そのほうが効率がいいだろうということで決まった。

「ろくな情報がないな」
 村の人に聞いてみたが、情報はまったく集まらなかった。
 仕方なく、俺は待ち合わせ場所の村の入り口に向かった。
 他の仲間に期待してみよう。……あまり期待できそうにはないが。
「あんた、旅の人かね」
 入り口に向かう途中で、一人のばあさんに声をかけられた。
「そうですけど」
「まさか、あんたも魔法の玉を探しているのかね?」
「魔法の玉?」
「人はなぜ、見知らぬ土地に出て行こうとするのかのう……」
 一方的に話すと、ばあさんは行ってしまった。
 なんだったんだ、いったい……。
 それにしても、魔法の玉がどうとか言っていたけど、なんのことなんだ?
 ばあさんの言葉が気になりつつも、みんなの元へと向かった。

 入り口に着くとすでに、みんな集まっていた。
「おっそ〜い」
 待ちくたびれたミリアが開口一番に文句を言う。
「カイトは何をするにもトロイんだから」
「うるさい。それより、何か情報はあったのか?」
 俺の言葉に三人は首を振る。
「そういうカイトは?」
 ミリアの言葉にさっき聞いた魔法の玉の話をする。
「魔法の玉…ですか? 聞いたことありませんね」
「あたしも聞いたことないな」
 レイラは首を振って、聞いたことがないことを示す。
「今度は魔法の玉について聞いて回った方がいいのでしょうか?」
「はぁ……疲れるわね」
「とりあえず、そこの人に聞いてみないか?」
 レイラが指差す方に一人の男が歩いていた。そうだな、とりあえずあの人から聞いてみるか。
「では、私が聞いてまいりましょう」
 そういうと、ユズハは男の方に歩いて行った。



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